子供の才能は遺伝子次第?
公開日:2015年12月24日
能力や才能については、「生まれか育ちか」と議論されますが、最近の双生児研究などから、遺伝要因に、環境要因、時間要因が複雑に影響していることが分かってきました。また、各能力に深く関わる遺伝子も見つかってきています。
生まれか育ちか、双生児の研究で分かってきたこと
「この子にはどんな才能があるんだろう。できればその才能を伸ばしてあげたい。」小さな子どもを持つ親ならだれでもそう思うものです。また、実際そういったニーズに対して、子供の能力・才能を調べることをうたった遺伝子検査も存在します。
能力や才能については、昔から「生まれか育ちか」と議論されてきましたが、最近の双生児研究などから、これは二者択一のものではなく、遺伝要因に、環境要因、時間要因が複雑に影響していることが分かってきています。端的にいうと、遺伝的な素質を開花させるのは、環境次第といったところです。
なお、遺伝要因と環境要因が能力に与える見積もりは、おおまかには以下の図のようなものと考えられています。
音楽や運動の才能は遺伝要因が大きいですが、言語性知能(語彙の知識や言葉を使った推論能力)や学業の成績については、環境要因も大きいようです。素質があろうとなかろうと、子供にきちんとした学習環境を用意してあげることは大事だということですね。
遺伝と環境の寄与の度合い
(Newton「遺伝とゲノム」(ニュートンプレス 2013年)より抜粋)
知能に関わる遺伝子
音楽や運動の才能ほどではありませんが、知能は遺伝子の影響を受けていて、学業成績では約6割程度が遺伝要因によるものと考えられています。ただし、数学など特定の教科の成績が良くなる遺伝子が見つかっているというわけではありません。また、「天才になる遺伝子」というようなものも、これまでのところはっきりとは見つかっていないようです。
nature.com
Scientific Reports 5, Article number: 11713 (2015)
Pleiotropy across academic subjects at the end of compulsory education
nature.com
Molecular Psychiatry (advance online publication 2015)
A genome-wide analysis of putative functional and exonic variation associated with extremely high intelligence
知能との関わりが研究されている遺伝子の例
これまでに、知的障害や発達障害、言語障害に関わる遺伝子については複数見つかっており、そこからヒトの知性や言語能力の謎を探ろうという研究が、進められています。
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FOXP2遺伝子
言語能力との関連性が研究されている遺伝子。ヒトの言語障害や自閉症との関連性が報告されており、「言語遺伝子」とも呼ばれています。また、ヒトとチンパンジーではこのFOXP2遺伝子のうち2つのアミノ酸に違いがあり、そこからDNAを転写するタンパク質の機能が異なっていることが分かっています。この違いがヒトとチンパンジーの言語能力の差を生んだと主張する研究者もいるほどで、今後の研究が期待されています。
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NMDA受容体遺伝子
記憶力との関係性が研究されている遺伝子。記憶には、興奮性神経伝達物質の受容体の一つである「NMDA受容体」というタンパク質が関与していて、「NR1」と「NR2」という部分が2つずつあわさってできているタンパク質です。なお、「NR2」は機能の良い「NR2B」から機能の悪い「NR2A」に変化していくことが分かっています。過去マウスを使った実験では、「NR1」を欠損させたマウスでは迷路学習ができなくなり、逆に「NR2B」を過剰に作るマウスでは迷路学習能力がアップしました。このことから、NMDA受容体タンパク質と記憶との関連性が注目され、今日でも研究が続けられていましかしこれまでのところ、ヒトの記憶力を左右するほどのNMDA受容体遺伝子の変異体は発見されていないそうです。
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GDI1遺伝子
ニューロンの神経伝達物質の放出に関わるGDI1タンパク質を作るための遺伝子。神経伝達物質を正常に放出するためには、神経伝達物質がつまったシナプス小胞をニューロンの膜へと運ぶ、Rab3Aタンパク質とGTP(グアノシン三リン酸)の複合体の量が適切に保たれている必要があるのですが、そのGTPの機能を調整しているタンパク質が、GDI1タンパク質です。このGDI1タンパク質の設計図であるGDI1遺伝子に異常が生じると知的障害の原因になるとされています。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
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頭の良さは遺伝?知能に関わる遺伝子
知能に与える遺伝子の影響は小さくありませんが、「天才遺伝子」なるものはこれまでのところはっきりとは見つかっていません。一方、知的障害等に関わる遺伝子については複数見つかっており、そこからヒトの知性や言語能力の謎を探ろうという研究が、進められています。…
運動能力に関わる遺伝子
持久力や瞬発力、体力要因などの運動能力と遺伝子との関係性は、これまで200をこえる遺伝子で研究がなされています。
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ACTN3遺伝子
速筋繊維(速い速度で収縮し、大きな力を瞬間的に発揮する筋肉)に存在するαアクチン3タンパク質をつくるための遺伝子で、この遺伝子の働きによって「持久力系競技」向きの筋肉か「瞬発力系競技」向きの筋肉かが決まるといわれています。
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瞬発系か持久系かを決める遺伝子、「ACTN3遺伝子」
スポーツには、マラソンなどの筋肉を動かし続ける「持久力」が重要な競技と、短距離走などの瞬間的に筋肉を強く動かす「瞬発力」が重要な競技があります。このどちらの競技に向いているかを決めているのが、「ACTN3遺伝子」です。…
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ACE遺伝子
ACE遺伝子は、動脈の収縮に関連する酵素、アンジオテンシン変換酵素の遺伝子です。動脈を収縮させる働きの強い「D型」と「I型」があり、II型だと持久力が高い傾向にあるとされています。このACE遺伝子については、水泳能力との関係も調べられていて、ヨーロッパ系の短距離競泳選手には、DD型が多いそうです。しかし、アジア系の短距離競泳選手ではこの逆で、II型が多いそうで、人種によって、必要となる遺伝子型が異なる可能性が示唆されています。
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ミトコンドリアDNA
ミトコンドリアDNAは、細胞の中でエネルギーを生み出しているミトコンドリアの中にあるDNAです。日本人ではおおまかに12種類の型に分類されますが、元オリンピック選手を対象とした研究では、日本人トップアスリートにおいて、持久系では「G1型」が、瞬発系では「F型」と呼ばれるDNA型が、それぞれ有意に割合が高かったそうです。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
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「運動神経」とは別物?「運動能力」に関わる遺伝子
スポーツが出来る子に対して、「運動能力(身体能力)が高い」、「運動神経がいい」とよくいいますが、「運動能力」と「運動神経」は別物で、運動能力は遺伝による影響が大きいものの、運動神経は遺伝による影響は小さいとされています。…
音楽や絵画など、芸術的才能に関わる遺伝子
遺伝子が音楽的才能に与える影響は非常に高く、いくつかの遺伝子と音楽的才能との関係も報告されています。一方、絵画の才能と遺伝については、調べた限りあまり情報がありませんでした。また、芸術的な創造性は、根源となる遺伝子を統合失調症や双極性障害(躁うつ病)と共有している可能性も指摘されています。
詳しくは、以下のページをご覧ください。
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音楽や絵画など、芸術的才能に関わる遺伝子
遺伝子が音楽的才能に与える影響は非常に高く、いくつかの遺伝子と音楽的才能との関係も報告されています。このページではそのいくつかを紹介したいと思います。…
受ける前に注意!その遺伝子検査で本当に才能が分かるの?
最近は、子供の才能を調べることをうたった遺伝子検査も存在します。しかし、その結果を鵜呑みにして、子供の興味関心を制限したり、何かを強要したりすることは止めるべきでしょう。
たとえば、運動能力が高くない遺伝子を持っていても、運動神経※が良くなる環境で育った子は、オリンピックメダリストは目指せなくても、十分スポーツが得意な子に育つと考えられます。
また、芸術面で言えば、たとえば「色彩感覚」に関連する遺伝子を調べても、それで分かることは一般的な色の見え方と違いがあるかないかが分かるだけで、それが芸術的才能の有無に直結するわけではありません。そもそも、「ひまわり」や「夜のカフェテラス」などの作品で有名なゴッホは色覚異常だったという説もあるくらいですから。
※ 運動神経は、遺伝要因りも環境要因のほうが大きいといされています。
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- 学んでみると遺伝学はおもしろい(針原 伸二(著) ベレ出版:2014年3月)
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
- 遺伝子医療革命(フランシス・S・コリンズ(著) NHK出版:2011年1月)
- 人体特許: 狙われる遺伝子情報(五十嵐享平(著) PHP研究所:2013年12月)
- 金メダル遺伝子を探せ(善家 賢(著) 角川書店:2012年7月)
- IQは金で買えるのか(行方史郎(著) 朝日新聞出版:2015年7月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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