はげ(薄毛)は遺伝?日本人男性の3人に1人がAGA!
更新日:2017年01月27日
はげ(薄毛)は、遺伝するとよく言われます。実際、薄毛にかかわる遺伝要因は、明らかになりつつあり、対処法が見つかっているものもあります。ここでは、はげ(薄毛)について分かってきた遺伝要因と、それを調べる遺伝子検査を紹介します。
日本人男性の3人に1人!男性型脱毛症(AGA)とは?
男性型脱毛症(AGA)とは、思春期以降に発症する進行性の脱毛症のことです。日本国内における統計では40歳代で約3割、60歳代以後では約半数の男性が発症すると言われ、日本人男性の3人に1人がAGAであるという統計データがあります。
日本人男性のAGA(男性型脱毛症)年齢別発症率
Hair Research. Springer, Berlin Heidelberg New York: 1981: 287-293
AGAの診断には Hamilton/Norwood/Takashima の分類を使うことが一般的です(下図参考)。
角額の後退が頭頂線の前方2cmに達する「タイプⅢ」以後に進行するとAGAと診断されますが、日本では2cmの後退に達する前に頭頂部の脱毛が目立ってくる「タイプⅡ vertex」が多いといわれています。
AGA(男性型脱毛症)の進行パターン
Hamilton/Norwood/Takashima の分類
なお、「男性型」という名前ですが、女性でも発症する場合があります。女性の場合、更年期以後発症することが多いのですが、男性と異なり前頭部の生え際は保たれ、頭頂部の脱毛が進行します。
AGAの主犯!男性ホルモンとAR遺伝子
なぜ、男性は年をとると毛が細く短く、薄毛になっていくのでしょうか。これは男性ホルモンによって引き起こされる現象であることが分かってきました。
毛の伸長に大切な毛乳頭には、男性ホルモンを受け取るタンパク質があるのですが、男性ホルモンを受け取った毛乳頭は、その働きが弱められてしまうのです。
髪と髭では逆に働く男性ホルモン
一般的に男性ホルモンは、骨、筋肉の発達を促し、髭や胸毛などの毛を濃くします。しかし前頭部や頭頂部などでは、逆に軟毛化現象を引き起こします。
男性ホルモンの1種であるテストステロンが毛乳頭細胞に運ばれると、さらに活性の高いジヒドロテストステロン(DHT)に変化して受容体に結合します。DHTと結合した男性ホルモン受容体は、髭では細胞成長因子などを誘導し、毛の成長期が延長します。逆に前頭部や頭頂部では脱毛因子であるTGF-βなどを誘導し、毛母細胞の増殖が抑制され、成長期が短縮してしまうのです。
J Investig Dermatol Symp Proc. 2006 Dec;10(3):209-11.
Role of androgen in mesenchymal epithelial interactions in human hair follicle.
母方由来の男性ホルモン受容体遺伝子(AR遺伝子)
男性ホルモンを受け取った毛乳頭細胞の働きが弱まるということは、薄毛になるかならないかは、男性ホルモンを受け取るタンパク質の感受性次第となります。
この感受性を左右する男性ホルモン受容体遺伝子(AR遺伝子)はX染色体上に存在し、この遺伝子のエクソン1と呼ばれる部分の塩基配列(CAG、GGC)の繰り返しの長さがAGAと関連していると言われています。(繰り返しの長さが長いほどAGAのリスクが低く、短いほどAGAのリスクが高い。)
なお、X染色体上にあるということは、男性の場合、下図の通りAR遺伝子は母親由来の遺伝子ということになります。したがって、両親がはげていなくても、母方の祖父が薄毛だった場合、 隔世遺伝ではげる確率が高まります。
常染色体上の薄毛に関連する遺伝子
X染色体の遺伝子が薄毛の原因なら、父親が禿げていても安心、というわけではありません。常染色体でも、3番遺伝子(3q26)、20番遺伝子(20p11)にそれぞれAGAに関連する遺伝子が見つかっています。
Nature Genetics 40, 1282 - 1284 (2008)
Male-pattern baldness susceptibility locus at 20p11
また、先天性の脱毛症が多いロシアのヴォルガ・ウラル地域での調査から、3番染色体上にあるLIPH遺伝子が脱毛に関連していることが分かりました。
ファルマシア 43(8), 819-820, 2007-08-01
リパーゼH遺伝子(脂質関連遺伝子)が脱毛に関与している
AGAの治療法
最近は、AGAに有効な育毛剤が開発され、皮膚科診療で積極的に使用されるようになってきました。一方、世の中には科学的見地のからは効果のほどが怪しい治療法も多数出回っているのが現状です。このことから、日本皮膚科学会は2010年にAGA治療に関するガイドラインを発表しました。ここではそのガイドラインで推奨されている治療法を紹介します。
フィナステリド
テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)へ変化するときには、Ⅱ型5α-リダクターゼという酵素が働きます。この酵素の働きを邪魔するものがフィナステリドです。国内および海外の研究で、フィナステリドの内服が、男性に対して、脱毛状態の改善、毛髪数の増加、毛髪重量の増加に効果があることが証明されています。また、懸念される性機能への副作用は、報告されている臨床試験では、プラセボ(偽薬)群と有意な差はなかったそうです。
なお、円形脱毛症や基礎疾患に伴う脱毛症、加齢に伴う老人性脱毛症には無効です。また、国内においては、20歳未満に対する安全性は確立しておらず、発症予防のための若年者への処方は、していません。
一方女性に対しては、更年期では効果が無いことが確認されています。また、妊娠中の女性に投与するとDHTの低下により男子胎児の外性器が女性化するなど、生殖器官異常のおそれがあるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性、授乳中の女性への投与は禁忌とされています。
以上のことから、日本皮膚科学会は、AGAの男性症例に対する内服療法の第一選択薬として強く推奨する一方、女性症例に対しては使用しないよう勧告しています。
なお、フィナステリドは全てのAGA患者に同じ効果があるわけではありません。先のAR遺伝子のエクソン1にあるCAGリピートの長さがフィナステリドの効果に影響していて、CAGリピートが短いほど、フィナステリドの効果が高くなるといわれています。
ミノキシジル
ミノキシジルは血管拡張剤として開発されたもので、後に発毛効果が確認されました。日本では発毛剤として、大正製薬からリアップ(R)シリーズとして販売されています。
ミノキシジルは、毛乳頭細胞において、毛の成長期を誘導維持する作用があり、また、フィナステリドとは薬理作用が異なるので、併用が可能です。国内外の臨床試験において、男性、女性のどちらにも発毛促進の効果がみられ、重篤な副作用は生じていないことから、日本皮膚科学会は、男性症例に対しては5%ミノキシジル外用液を、女性症例に対しては1%ミノキシジル外用液※を、それぞれAGAの外用療法の第一選択薬として推奨しています。
※ 女性が5%ミノキシジル外用液を使用すると顔面が多毛になる場合があるため、1%外用液を推奨しています。
育毛剤
日本皮膚科学会は、以下の成分を含む育毛剤を、複数の臨床試験において有効性を示す報告があり、全体としてはややエビデンスが弱い部分もあるものの、外用療法の一つとして推奨(推奨度:C1(用いてもよい))しています。
- 塩化カルプロニウム
- t-フラバノン
- アデノシン
- サイトプリン・ペンタデカン
- ケトコナゾール
参考資料
- 日本皮膚科学会ガイドライン
男性型脱毛症診療ガイドライン(2010年版) - ラジオNIKKEI 病薬アワー
男性型脱毛症について
日本皮膚科学会が提唱する治療アルゴリズム
「男性型脱毛症診療ガイドライン(2010)」より
AGAをチェックしてくれる遺伝子検査
AGAの遺伝子検査では、先に説明したAR遺伝子のエクソン1における、塩基配列(CAG、GGC)の繰り返しの長さを調べることで、
- AGAの発症リスク
- フィナステリドの治療効果
を予測します。
遺伝子検査キットの紹介
AGAドック(男性用/女性用)
薄毛・AGA
AGAドック(男性用/女性用)は、ヘアケアグッズを中心に販売しているイー・ケイ・コム社の、AGA専門の遺伝子検査キットです。遺伝子検査は、国内最大手であるジェネシスヘルスケア社に委託しているので、解析の質及び情報保護の観点では信頼できると思います。また、ヘアケア用品会社ならではのアドバイスがあり、また、購入から1年間は、専門スタッフによる薄毛対策のサポートも受けることができます。
項目 | 詳細 |
---|---|
費用(税別) | 12,000 円 |
検査方法 | 自宅で口腔内粘膜を採取して、郵送。 |
検査結果日数 | 約2、3週間 |
DHC 遺伝子検査 毛髪対策キット
薄毛・AGA
日本でNo.1の解析実績を持つジェネシスヘルスケア社と提携。
AGA(男性型脱毛症)の遺伝的なリスクを調べるとともに、DHCがおすすめのトニックやサプリ、ライフスタイルを提案。
項目 | 詳細 |
---|---|
費用(税別) | 9,200 円 |
検査方法 | 自宅で唾液を採取して、郵送。 |
検査結果日数 | 3、4週間 |
このページが役に立ったらシェアお願いします!
あわせてよく読まれる記事
-
髪の毛が生える仕組みと遺伝子
そもそも髪の毛はどのようにして生えてくるのでしょうか。まずは毛の生える仕組みとそこに関わる遺伝子について説明します。…
-
長寿のカギ?サーチュイン遺伝子とカロリー制限について
「サーチュイン遺伝子」とは、長寿に関わる遺伝子として、酵母等のSIR2遺伝子、ヒトのSIRT1遺伝子などが研究されています。この遺伝子は、カロリー制限をすると活性化し、また、赤ワインなどに含まれる「レスベラトロール」という物質でも活性化が確認されています。…