病気と遺伝子 - 遺伝子疾患とよくある病気(common disease)-
公開日:2016年05月22日
近年、GWAS解析(Genome Wide Association Study)によって、病気に影響を及ぼす遺伝子がたくさん見つかっています。また、遺伝子検査でもこれらの研究をもとに遺伝子のSNPを調べて、将来の疾患発症リスクを推定しています(ただし、DTC遺伝子検査では単一遺伝子疾患は検査対象外で、多因子遺伝性疾患の検査に限られています)。
ここでは、これら病気の要因となっている遺伝子を紹介したいと思います。
遺伝子が関わる病気
染色体の異常がもたらす遺伝病
ヒトの染色体は2本で1セットですが、ときに特定の染色体だけ3本(トリソミー)や1本(モノソミー)になることがあります。常染色体でこのような異常が生じると、重い症状が妊娠中に起こり、早期に流産してしまう場合がほとんどです。しかし、21、18、13番染色体のトリソミーでは流産せずにダウン症などの障害をもって生まれてくる場合があります。一方、性染色体でもX染色体の異常はよくみられ、様々な先天異常や発育異常を伴う症候群の原因となりますが、過剰な染色体は不活性化するため、常染色体トリソミーと比較して症状は軽く、一生発見されない場合もあります。
詳しくは、 染色体異常と遺伝病
核内の遺伝子変異が引き起こす単一遺伝子疾患
単一遺伝子疾患は、1つの遺伝子の変化によって引き起こされる病気で、メンデルの遺伝法則にしたがって、優性遺伝するのものと劣勢遺伝するのものがあります。また、常染色体の上にある遺伝子が原因の遺伝病のほかに、性染色体であるX染色体の上の遺伝子が原因の遺伝もあり、血友病などがこれに該当します。なおDTC遺伝子検査では単一遺伝子疾患は検査できませんが、病院で健康保険適用を受けて遺伝子診断可能なものもあります。
詳しくは、 核内の遺伝子変異が引き起こす単一遺伝子疾患
母性遺伝するミトコンドリア病
ミトコンドリア病は、細胞内のミトコンドリアの中のDNAの異常が原因で発症する病気です。特に注目されているのがミトコンドリアDNA中の3243番目のアデニン(A)がグアニン(G)に置き換わった「A3243G変異」です。この変異は、糖尿病や脳筋症のリスクを高めます。なお、ミトコンドリアは母親からしか子に受け継がれないため、こうした変異は母親から子に伝わるとされていますが、母親には異常がなくても、子供で突然生じる例もあるそうです。
詳しくは、 母性遺伝するミトコンドリア病
多因子遺伝性疾患とよくある病気(common disease)
単一遺伝性疾患では、1つの遺伝子が疾患を引き起こす原因となっていますが、2つ以上の遺伝子がかかわり形質(生物のもつ性質や特徴のこと)が現れるものもあります。これを「ポリジーン(多遺伝子)」による遺伝と呼んでいます。ポリジーンが関係する遺伝病は、複数の遺伝子が関わる「多因子遺伝性疾患(多因子遺伝病)」で、口唇口蓋裂や先天性心疾患などの生まれつき身体にはっきりした異常が表れるタイプの病気ほか、私達がよく耳にする糖尿病やがんなど、生活習慣と深く関わりのある病気も含まれます。
詳しくは、 ポリジーンと多因子遺伝性疾患
がんと遺伝子
「がん家系」など、癌(がん)といえば、遺伝するものというイメージを持っている人が多いと思います。確かにがんは遺伝子の病気で、正常な遺伝子が傷ついたりして、制御が効かずに細胞分裂の暴走を始めた状態ですが、遺伝性(家族性)のがんは、全体の数%とごく一部です。今や3人に1人ががんで亡くなる時代ですが、その大部分が複数の遺伝要因と環境要因が絡む多因子性疾患なのです。
がんに関わる遺伝子は、大きく分けて、がん遺伝子、がん抑制遺伝子、DNAミスマッチ修復遺伝子の3つがあります。これらの遺伝子の先天的あるいは後天的な変異が、がんへの第1段階となります。ただし、変異が生じるとすぐにがんになるというわけではなく、悪性腫瘍に至るまでは、何段階かの変異が累積していく必要があります。
詳しくは、 これまでに見つかっている癌(がん)を引き起こす遺伝子
日本人の糖尿病に関係が深い遺伝子
糖尿病は血糖値が非常に高い状態になり、体に異常が現れる病気です。健康な体であれば膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる場所にあるインスリン分泌細胞(β細胞)で作られたインスリンが血液中で適切に作用して血糖値を正常に保ちますが、インスリンの分泌量が少ないあるいはその効果が低くなると糖尿病になります。このインスリンに関連する遺伝子に変異が生じると、それだけで直ちに糖尿病になるわけではありませんが、生活習慣次第で糖尿病に罹るリスクが増加します。
詳しくは、 日本人の糖尿病に関係が深い遺伝子
感染症と遺伝子の関係
感染症というとウイルスや虫を媒介して罹る病気で、遺伝子とあまり関係がないように思いますが、実は遺伝子によって感染症にかかりやすいかかりにくいというものが、いくつか見つかっています。例えば、感染症全般において、女性よりも男性の方が感染しやすいと言われていますが、これは免疫系に関わる約80の遺伝子が性染色体であるX染色体の上にあることが関係しています。また、エイズ耐性のある遺伝子も見つかっています。
詳しくは、 病気のかかりやすさも遺伝?感染症と遺伝子の関係
オーダーメイド医療の実現に向けて
薬の効きやすさは、人によって個人差がありますが、これは、主に、体内で薬に作用する酵素の効率が人の遺伝子によって違うからです。そのため、薬を投与する前に予め患者の遺伝子を調べ、その遺伝情報から薬の効き具合や副作用、投与すべき薬の量を予測することが必要ですが、すでに、抗がん剤のゲフィチニブ(商品名:イレッサ)やセツキシマブ(商品名:アービタックス)などでは、薬の処方前に遺伝子検査を実施して、効果があるかないかを事前に調べるようになっています。
詳しくは、 オーダーメイド医療の実現に向けて
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
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