遺伝子とは? DNAとは?
更新日:2016年03月23日
DNAとはデオキシリボ核酸と呼ばれる「物質」、遺伝子とはそのDNAの上に書かれたタンパク質の設計図、つまり「情報」です。この章では、そもそも遺伝子とは何か、遺伝子検査のキーワードになるSNP、そのほか、エピジェネティクスや遺伝子特許などについて、解説します。
「遺伝子とは?DNAとは?」の記事一覧
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遺伝子とは?DNAとは?
DNAとはデオキシリボ核酸と呼ばれる「物質」、遺伝子とはそのDNAの上に書かれたタンパク質の設計図、つまり「情報」です。遺伝子に変化が生じてタンパク質の設計図が変わってしまうと、そのタンパク質が担っていた機能がうまく働かなくなる場合があります。…
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SNP(1塩基多型)とは
SNP(1塩基多型)とは、DNAの中の1つの塩基が別の塩基に置き換わったもので、ヒトゲノムでは、約300万個あるといわれています。このSNPは、人が病気になったり、体質の違いを生む要因の一つになっているのではないかと考えられています。…
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ポリジーンと多因子遺伝性疾患
「ポリジーン(多遺伝子)」による遺伝とは、2つ以上の遺伝子がかかわり形質が現れるもののことです。複数の遺伝子が関与するということは、1つ1つの遺伝子の寄与率が低くなるということであり、それだけ遺伝子以外の影響(環境など)も受けやすくなります。…
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エピジェネティクス(エピゲノム)- 三毛猫DNAが白黒縞模様に! -
エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみのことで、その情報の集まりがエピゲノムです。近年では、このエピジェネティクスに異常が生じると、癌を初めとするさまざまな疾患に関わることが報告されています。…
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翻訳されないRNA、ノンコーディングRNA(ncRNA)
タンパク質に翻訳されるmRNAですが、実はタンパク質に翻訳されないRNAがあります。これがノンコーディングRNA(ncRNA、非コードRNA)です。ヒトゲノムのうち、遺伝子に当たる部分は全ゲノムの約5%、さらにタンパク質をコードするエキソン部分だけだと、1%程度にすぎません。…
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遺伝子特許をめぐる攻防
人が生まれながらに持っている遺伝子の特許を取得すると聞いてもピンと来ないと思いますが、すでにヒト遺伝子の約3分の1が特許申請されており、この特許の是非について、20年以上にわたり攻防が繰り広げられています。…
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ミトコンドリアDNAのハプログループでたどる日本人のルーツ
ミトコンドリアは、核とは別に独自のDNAを持っています。このミトコンドリアDNAを使って、自分の祖先のルーツを調べる遺伝子検査がありますが、このページでは、人類がアフリカを旅立ち、日本に到着するまでの道のりを、このDNAから追いかけていきます。…
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Y染色体を用いた父系統ハプログループの研究
Y染色体はミトコンドリアDNAと比べると塩基の数が3,000倍以上で、解析が容易ではありませんでしたが、最近ハプログループ分けがなされていて、ミトコンドリアDNA同様研究が進められています。…
遺伝子とは? DNAとは?
DNAとはデオキシリボ核酸と呼ばれる「物質」、遺伝子とはそのDNAの上に書かれたタンパク質の設計図、つまり「情報」です。遺伝子に変化が生じてタンパク質の設計図が変わってしまうと、そのタンパク質が担っていた機能がうまく働かなくなる場合があります。
生命現象を司るタンパク質とその設計図、遺伝子
DNAと遺伝子、よく混同される2つですが、DNAとはデオキシリボ核酸と呼ばれる「物質」、遺伝子とはそのDNAの上に書かれた、約2万数千個あるといわれているタンパク質の設計図です。
私たち人間を含め、地球上の生物はみな、タンパク質でできています。それは体を作っている皮膚や筋肉だけの話ではありません。血液やリンパ液、体の機能を調節するホルモン、消化や代謝に関わる酵素、外界や体内からの刺激を受け取るレセプター(受容体)など、体中のあらゆるところで、多種多様なタンパク質が活躍しています。
これらのタンパク質は、細胞の中で小さなアミノ酸をつなぎ合わせてつくられていますが、このとき、タンパク質をつくるための設計図になるものが「遺伝子」です。
正しい設計図に基づいてタンパク質がつくられ、それらがきちんと機能していれば、私たちは問題なく生活ができます。しかし、その設計図に間違いがあったらどうなるでしょうか。正常なタンパク質がつくられなくなり、そのタンパク質が担っていた機能がうまく働かず、疾患や体質の異常に現れるかもしれません。
一方で、その設計図の間違いを見つけることができ、その人がどういう体質でどういう疾患の傾向があるかがあらかじめ分かっていれば、それに応じたヘルスケアを提供することが可能です。この発想が、「遺伝子検査をして、自分の体質・疾患リスクを知り、生活改善につなげよう」という考えにつながるのですが、遺伝子検査の話をする前に、まずはDNAと遺伝子について、もう少し詳しく理解しておきましょう。
タンパク質の立体構造例
DNAとゲノムについて
DNAの長さ
DNAはA(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という塩基物質から構成されていて、常にAとT、GとCがペアになった2重らせん構造をとっています。
DNAと塩基対
「 A(アデニン)」と「T(チミン)」、「G(グアニン)」と「C(シトシン)」が対になって、二重螺旋の構造をとっている
ヒトのDNAは、1細胞中のDNAを全てつなぎ合わせると約2mもの長さになります。そしてそれはわずか直径10μm程度の小さな「核」と呼ばれるものの中に収められています。身近な例でたとえると、核がピンポン玉(直径40mm)の大きさとすれば、DNAの長さはだいたい東京から箱根までの距離(約80km)になります。
なぜこんなに長いものが小さな核の中におさまっているかというと、DNAが非常にコンパクトな形に折りたたまれているからです。まず、核の中で、DNAはヒストンと呼ばれる小さなタンパク質に巻き取られるような形で、小さく折りたたまれます。この部分をヌクレオソームと呼びます。このヌクレオソームが密集して、太い繊維状の「クロマチン繊維」になり、それが核の中に入っています。
染色体とゲノム
クロマチン繊維は、細胞分裂の際、さらに高度に折りたたまれます。それによって、染色体と呼ばれるものが核の中に現れます。染色体は1本ではなく、複数に分かれていますが、この染色体の数は、生物ごとに決まっています。ヒトの場合、母親由来の23本(常染色体22本+性染色体1本)、父親由来の23本(常染色体22本+性染色体1本)の合計46本です。母親、父親から遺伝子を受け継ぐので、同じ機能にかかわる遺伝子はそれぞれ2つずつ持っていることになりますが、このセットを「対立遺伝子」と呼んでいます。
なお、遺伝子やDNAと同じくらい「ゲノム」という言葉を耳にすると思いますが、ゲノム(genome)は、遺伝子(gene)と、この染色体(chromosome)から、ドイツの植物学者Hans Winklerが1920年につくった造語です。ゲノムの定義については、1930年、日本の木原均博士が、コムギの研究を通じて「ある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報」としており、今日では「染色体上の遺伝子が持つ全遺伝情報」と考えるのが一般的だそうです。
ヒトの場合、染色体23本がゲノムの1セットとなります(46本あるので、体内には合計2セットのゲノムを持っています)。ちなみに、その1セットは約30億の塩基対のDNAからなり、その上に約2万数千個の遺伝子が存在しています。
ゲノムの構造図
DNAからタンパク質が作れられるまで
タンパク質の設計図としての役割
ヒトの体はタンパク質からできていますが、そのタンパク質は20種類のアミノ酸からなります。ちなみに、体内でもっとも小さなタンパク質はインスリンですが、それでも51個のアミノ酸からできています。なお、アミノ酸は体内で合成されたり、食事から摂取しますが、こうして得られたばらばらのアミノ酸をつなぎ合わせてタンパク質をつくるための設計図が、DNAには記されています。
DNAは、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)が並んで出来ていることはすでに述べました。このAGCTの並びが、例えば「TAC」だと「チロシン」、「AAT」だと「アスパラギン」というように、3つの塩基で1つのアミノ酸を表しています。そして、この並び順が合成するタンパク質のアミノ酸の並び順に対応していて、この設計図をとに体内でタンパク質が作られていきます。
通常、このようなタンパク質を形成するための情報が記されているDNAの一部分のことをさして、「遺伝子」と呼んでいます。ヒトの場合、DNA上に遺伝子は2万数千個あると言われていますが、DNA全体に占める割合はわずか数%です。
タンパク質が作れられるまでの流れ
DNAからタンパク質が作られるまでには、「DNA→転写→RNA→翻訳→タンパク質」という流れを経ます。
まず、タンパク質の設計図が書かれたDNAの一部分が、メッセンジャーRNA(mRNA)※と呼ばれるものに写し取られます。この過程を転写と呼びますが、これは、原本(DNA)は大切に保管し、必要なときに、必要な箇所だけコピー(mRNA)して、持ちだすようなイメージです。
そして、持ちだされたコピーであるmRNAを使って、細胞内のタンパク質製造工場であるリボソームでタンパク質が合成されます。この過程を翻訳と呼びます。
リボソームでは、mRNAの塩基配列が指定した順に、トランスファーRNA(tRNA)がアミノ酸を運んできます。そしてそれらを順番に結合していくことで、タンパク質が作られます。
※RNAとは、DNAに構造が似たもう1つの核酸。DNA塩基のT(チミン)の代わりにU(ウラシル)という塩基が使われているなどの違いがあります。
なお、遺伝子は以下の様なパーツから構成されていて、それぞれの役割を持っています。
- ・ボディ
- mRNAに転写される部分。この部分だけを遺伝子と呼ぶこともある。
- ・エキソン
- タンパク質を作るのに使われる部分。
- ・イントロン
- タンパク質を作るのに使われない部分。
- ・プロモーター
- 転写が開始される「転写開始点」のすぐ近くにある塩基配列で、転写が行われる際、必要な転写因子とRNA合成酵素が集まってくる場所。
- ・エンハンサー
- 遺伝子の転写量を調整。
- ・インスレーター
- 遺伝子と遺伝子の境界線。
遺伝子を構成するパーツ
転写された情報は、イントロンが除かれて(pre-mRNAスプライシング)、RNAになります。
核以外にもDNAがある?! ミトコンドリアDNA
これまで核の中のDNAの話だけをしてきましたが、実は核の中以外にもDNAは存在します。その場所は細胞の中にある小さな器官、ミトコンドリアです。
ミトコンドリア
ミトコンドリアは、細胞が必要なエネルギーを生み出す器官で、細胞の中の発電所とも言われています。ミトコンドリアはかつては独立した生物でしたが、約20億年前により大きな生物に取り込まれて今のような細胞になったと考えられています。それゆえ、核とは独立したDNAを持っているのでしょう。
ちなみに、ミトコンドリアDNAは、母親からしか子に受け継がれません。父親由来のミトコンドリアは受精後消失してしまうからです。また、ミトコンドリアDNAは核内のDNAと異なり、突然変異が起こりやすいことが分かっていて、ミトコンドリアDNAを調べることで、自分の母系の祖先をさかのぼることができます。世界中の民族のミトコンドリアDNAを調べれば、民族どうしの関係やいつごろ民族が分離・独立していったかなどが推定できるのです。
なお、自分のルーツ、祖先はどこの民族なのかを調べてくれる遺伝子検査のサービスがありますが、それにはこのミトコンドリアDNAが利用されています。
DNAの個人差はわずか0.1%?!
あなたと私を分けるものは?
遺伝子の突然変異と進化
ヒトは母親由来のDNAと父親由来のDNAを持って生れてきます。しかし、いつも完璧なDNAのコピーが親から子に受け継がれるわけではありません。ときにはコピーエラーや染色体の構造変化が起こり、親が持っていない遺伝的特性を子が持つことがあります。これを「突然変異」と呼びます。私たちは、この突然変異を繰り返しながら、原始的な生物から現在のヒト、ホモサピエンスにまで進化してきました。
ちなみに、ヒトに最も近いとされる動物は、チンパンジーとボノボで、約500万年前に共通の祖先から分離したと言われています。しかし、この500万年の間に生じたヒトとチンパンジーとのDNAの違いは1%強しかありません。
左から、ヒト、チンパンジー、ボノボ。
見た目は全然違うが、ヒトとチンパンジー、ボノボのDNAの違いはたった1%強しかない。
ヒトどうしのDNAの差はわずか0.1%程度
ヒトとチンパンジーのDNAの差は1%強ですが、ヒトどうしのDNAの差はさらに小さく、0.1%程度といわれております。この0.1%の違いが、ヒトとヒトとの違いを生み出しています。
この違いは人類の歴史の中で起こってきた突然変異の積み重ねです。突然変異の大部分は人間の生命に影響を及ぼさないものですが、中にはさまざまな疾患や体質の違いの要因となるものもあり、近年の解析装置の進歩などによって、それらが明らかになりつつあります。
では次に、このDNAの違いと疾患・体質との関係、そして遺伝子検査でもよく出てくるキーワード「1塩基多型(SNP(スニップ))」について、説明しましょう。
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