血液型の遺伝 -遺伝子(SNP)の組み合わせと例外-
更新日:2016年02月26日
最も身近で分かりやすい遺伝の話といえば、ABO血液型の話でしょう。
ABO式の血液型は、輸血のための研究から進んだものです。今でこそ、献血の際には、血液型が一致しないといけないのは常識となっていますが、ABO式の血液型が明らかになる以前は、戦争などの負傷者に対して、輸血が有効な場合とそうでない場合がある理由が分かっていませんでした。
しかし、1900年、オーストリア・ハンガリーの病理学者・血清学者であるカール・ラントシュタイナーがABO血液型を発見、ここから安全な輸血法が確立していったのです。ちなみにカール・ラントシュタイナーは、この発見により、1930年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。

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遺伝子検査に関する知識まとめ
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遺伝子検査に関する知識まとめ
遺伝子検査って何を調べるの? 病院での検査との違いは? どうして会社によって検査結果が異なるの? など、遺伝子検査に関する様々な疑問や検査キットの選び方など、遺伝子検査に関する知識をわかりやすくまとめました。…
血液型とは赤血球の表面構造の違い
このように広く知られているABO血液型ですが、ABOは何の違いで分類されているか、知っている人は少ないでしょう。
A型、B型、AB型、O型という血液型は、血液中の赤血球の表面構造の違いによって分けられています。正確には、赤血球表面に存在するタンパク質(H抗原)に結合する糖鎖の種類の違いによるものですが、N-アセチルガラクトサミンという糖が結合するものが「A型(A抗原)」、ガラクトースという糖が結合するものが「B型(B抗原)」、その両方が結合するものが「AB型」、両方とも結合しないものが「O型」です。
また、A型の血液型の人は、生まれつきB型の糖鎖に対する凝集素と呼ばれる分子を血液中に持っています。A型の人にB型の血液を輸血すると、この凝集素が血管内でB型の赤血球を凝集させててしまい、少量であっても死に至ってしまいます。
同様に、B型の血液の人はA型の糖鎖に対する凝集素を、O型の人はA、B両方の凝集素を持っていますが、AB型の人はどちらの凝集素も持っていません。したがって、違う血液型でも、A型、B型の人はO型の人から、AB型の人は全ての血液型の人から輸血が可能※ですが、実際には異なる血液型の間での輸血はほとんど行われていないそうです。
※ O型の血液をA型の人に輸血すると、A型に対する凝集素も一緒に入ってしまうのでだめなのでは?と思ってしまいますが、血液を凝集させるには大量の凝集素が必要で、輸血する血液の中に含まれる程度の凝集素であれば、問題ないようです。(逆の場合は、体内に大量の凝集素があるので、凝集してしまいます。) もっとも、最近の輸血は成分輸血(必要な成分(赤血球、血漿、血小板)のみを輸血する)が主流で、通常輸血(赤血球の輸血)であれば、そもそも凝集素が含まれていません。
血液型を決める遺伝子
血液型の違いは、「ABO糖転移酵素」と呼ばれる酵素をつくる遺伝子の違い、SNPによるものです。 ABO糖転移酵素の遺伝子は、9番染色体※の上にある2万塩基対ほどの大きさの遺伝子で、次のような違いがあります。
- A遺伝子:
- 本来のもの。赤血球の糖鎖にN-アセチルガラクトサミンを付け足す酵素をつくる。
- B遺伝子:
- 塩基の置換が生じ、ガラクトースを付け足す酵素をつくる遺伝子に変化。
(アミノ酸配列の266番目のロイシンがメチオニンに、268番目のグリシンがアラニンに置換) - O遺伝子:
- 1塩基の欠損が生じ、酵素が作られなくなった。
(1塩基が欠損したため、86番目のアミノ酸を作る塩基がずれ、それ以降のアミノ酸がつくられず、完全な酵素にならない)
※ ヒトの染色体は、22本の常染色体と性染色体があって、22本の常染色体はそれぞれ1番染色体…22番染色体と呼ばれています。
A遺伝子を持っている人がA型、B遺伝子を持っている人がB型、A遺伝子、B遺伝子両方を持っている人がAB型、どちらも持たずO遺伝子のみを持つ人がO型となります。
遺伝子と血液型の組み合わせ
ヒトは父親から受け継いだ遺伝子と母親から受け継いだ遺伝子の2つを持っているので、血液型も遺伝子としては、AA型、AO型、BB型、BO型、AB型、OO型の6パターンあることになります。
しかし、A遺伝子、B遺伝子が優性なのに対して、O遺伝子は劣性なので※、AO、BOの人も血液型はA型、B型となります。
※ 遺伝の優性、劣性については、「メンデルの優性の法則 」をご覧ください。
血液型の遺伝の例外
基本的には、メンデルの遺伝の法則にしたがって、血液型は遺伝しますが、中にはいくつかの例外もあります。
cisAB型(シスAB型)
通常AB型では、A型の遺伝子とB型の遺伝子がそれぞれ別の9番染色体にのっていますが、まれに同じ染色体上にのったような状態のcisAB型(シスAB型)という人がいます。この場合、以下の図のように、AB型(cisAB型)とO型の親からAB型やO型の子が生まれたりします。
ボンベイO型
本来、赤血球の表面にはH抗原がついていて、そこにN-アセチルガラクトサミン、ガラクトースが結合して、A抗原、B抗原となります。しかしボンベイO型では、そのH抗原が無いために、A型、B型の遺伝子を持っているにもかかわらず、A抗原、B抗原が検出されず、通常の血液検査ではO型と判定されてしまいます。この見かけ上のO型によって、一見メンデルの遺伝の法則に反するような遺伝になる場合があります。
近畿大学医学部附属病院 輸血・細胞治療センター
"血液型"についてのいろいろ
遺伝子の突然変異
極めてまれですが、遺伝子に突然変異が生じると、当然メンデルの遺伝の法則には従いません。
つい先日(2015年10月)、韓国でともにB型の両親から突然変異によってAB型の子が生れたというニュースがありました。
世界初の突然変異AB型血液が出現、親がB型、子供がAB型(新華ニュース 2015年10月24日)
http://www.xinhuaxia.jp/social/83666
骨髄移植で血液型が変わる?
骨髄移植を受けると、提供者(ドナー)と同じ血液型になります。もともとA型だった人が骨髄移植後には、O型になったりすることがあるわけですが、これは骨髄移植後は、ドナーから提供された造血幹細胞が血液を作るようになるためです。
とはいえ生殖細胞の血液型の遺伝子まで変わってしまうわけではないので、骨髄移植を受けた人の子は、移植後の血液型ではなく、移植前の血液型が遺伝することになります。
血液型では性格は分からない
今のところ、科学的には血液型と性格に関係があるとはされておりません。血液型と性格を結びつけて考えるのは日本、韓国、台湾などの東アジアの一部地域だけのようで、その他の国ではそもそも血液型への関心自体が薄いようです。
血液型性格分類(Wikipedia)
もっとも、性格も環境要因の影響を大きく受けるので、仮に血液型と性格との間に何らかの関係性があったとしても、血液型だけで人を判断することは無理でしょう。
血液型を調べる遺伝子検査キットの紹介
血液を採取せずに血液型を調べることが出来る遺伝子検査キットも販売されています。ここでその一部を紹介します。
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- 学んでみると遺伝学はおもしろい(針原伸二(著) ベレ出版:2014年3月)
- 体質と遺伝子のサイエンス(中尾光善(著) ベレ出版:羊土社:2015年6月)
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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