肥満と脂肪細胞 - 人はなぜ太るのか -
公開日:2015年11月24日
「肥満」とは、一般的に正常よりも体重、体脂肪が多い状態をいいますが、もう少し科学的にみると、「白色脂肪細胞」と呼ばれるものに脂肪が過剰に蓄積された状態のことをいいます。このページでは、肥満の主役とも言うべき白色脂肪細胞と肥満の原因について、説明していきます。
肥満と脂肪細胞
白色脂肪細胞とは
白色脂肪細胞は、通常は直径0.08mm程度の丸い形状の細胞です。全身に広く分布していて、胎児期、乳児期、思春期の時期に急激に増え、成人になるころには250~400億個ほどになると言われています。
白色脂肪細胞と他の細胞との違いは、細胞の大部分を脂肪がたまった「脂肪滴(油)」が占めていることです。体内のエネルギーが過剰になると、脂肪を取り込んでこの脂肪滴が大きくなっていき、白色脂肪細胞は最大で元の直系の1.7倍程度(0.13~0.14mm)まで膨れ上がっていきます。なお、白色脂肪細胞の肥大化がさらに進むと、白色脂肪細胞の数自体も増えていきます。一昔前までは、思春期を過ぎると白色脂肪細胞は増えないと考えられていましたが、実は大人になっても増えていくことが最近の研究で分かってきていて、肥満者は一般成人の倍、600~800億個の白色脂肪細胞を持っているといわれています。
白色脂肪細胞は、細胞内の大部分を「脂肪滴(油)」が占め、肥満者では、それが膨れ上がってパンパンになっている。
その他の脂肪細胞
脂肪細胞には、白色脂肪細胞のほかに、褐色をした「褐色脂肪細胞」と呼ばれるものもあります。脂肪細胞と呼びますが、白色脂肪細胞のように脂肪をため込むわけではなく、働きとしてはその逆で、脂肪を消費して熱を発生させています。
褐色脂肪細胞は新生児のころが最も多く、成長するにつれ、その数は減っていきますが、とくに40代以降は急激に減少するといわれていて、中年太りの原因の1つではないかともいわれています。
ちなみに発熱量は筋力(骨格筋)の約100倍と非常に大きいですが、これは細胞の中の発電所ともいわれる「ミトコンドリア」を細胞内に多数持っているためです。この褐色脂肪細胞の発熱量に着目して、肥満解消に向けた研究も進んでいます。
一方、白色脂肪細胞とも褐色脂肪細胞とも異なる「ベージュ脂肪細胞」という脂肪細胞も最近発見されました。ベージュ脂肪細胞は、褐色脂肪細胞同様脂肪を消費して熱を発生させますが、白色脂肪細胞が多く集まっているところに存在します。どうやら、ベージュ脂肪細胞は、白色脂肪細胞が変化して生じるようです。まだまだ分からないことが多いベージュ脂肪細胞ですが、こちらも肥満解消のための重要な研究として注目されています。
褐色脂肪細胞内では、「脂肪滴(油)」が細胞内に分散しており、ミトコンドリアを多く含んでいる。
肥満細胞とは
脂肪細胞のほかに、「肥満細胞」という細胞の名前も、ときどき耳にすることがあるかと思います。名前からは肥満の原因のような印象を受けますが、実はこの細胞は、肥満とは関係ありません。肥満細胞は造血幹細胞(赤血球などの血球系細胞に分化可能な幹細胞)で作られる細胞の1つで、細胞の膨れた様子が肥満を思わせるところからついた名前です。マスト細胞とも呼ばれ、血管の周りに多く存在していますが、鼻の粘膜、気管支、リンパ節、皮膚などにも存在します。体の免疫反応などに重要な役割を持っている一方、花粉症などのアレルギー反応にも深くかかわっている細胞です。
肥満の指標、BMI(Body Mass Index)
肥満の程度を表す指標としては、体重のうち脂肪が占める割合を示す「体脂肪率」が最も適していますが、測定には手間がかかります。そこで、世界保健機関(WHO)などでは、肥満の程度を示す指標として、体脂肪率と相関関係の強いBMI(Bbody Mass Index)を用いています。
BMIは、
で計算される数値で、身長175cm、体重65kg の人であれば、
となります。
WHOは、成人においてBMIが25以上を「過体重」、30以上を「肥満」と定めています。しかし日本人は欧米人に比べて低いBMIでも肥満に伴う糖尿病等の発症率が高いため、日本肥満学会ではBMIが25以上を肥満としています。
ちなみに、日本人が統計的にもっとも病気にかかりにくいBMIは、22だそうです。
BMI | 状態 | |||
---|---|---|---|---|
~ | 18.5 | 低体重 | ||
18.5 | ~ | 25.0 | 普通体重 | |
25.0 | ~ | 30.0 | 肥満 1度 | |
30.0 | ~ | 35.0 | 肥満 2度 | |
35.0 | ~ | 40.0 | 肥満 3度 | (高度肥満) |
40.0 | ~ | 肥満 4度 | (高度肥満) |
日本肥満学会によるBMIの基準
肥満の原因な何か
一番の原因は「生活習慣」
肥満の原因の一つが生活習慣にあるということに、異論を持つ人はいないでしょう。 かつてヒトにとって食料を確保することは大変なことでした。狩猟、採集によって食料を確保していた時代は、何日も食事を取れないことがあったと想像できます。こうした時代を生き抜くために、ヒトは食べられるときに食べ、余った栄養は「脂肪」という形で体内に蓄えました。そして、食料が不足した時、その蓄えた「脂肪」を燃焼させて、なんとかエネルギーを確保してきたのです。
しかし、農耕、畜産技術が発達し、食料が比較的簡単に手に入るようになった現代の先進国では、このあまった栄養素を体に蓄えるメカニズムが仇となっています。高カロリーの食事と運動不足により、脂肪がどんどん蓄積、厚生労働省の2001~2010年の調査によると日本においても約3割が肥満だそうです。
肥満の人の生活習慣
2004年に、BMI指数が25以上の肥満肥満の人に対しての大規模な生活状況調査が実施されました。
(「肥満者の生活状況 - 22の生活要因による解析 -」 肥満研究(Vol.10 No.3 2004) 日本肥満学会)
それによると、肥満の人の生活習慣の特徴として、
- 食事量が多すぎる
- 早食いをする
- 動物性脂肪、糖質を摂り過ぎる
- 食事がアンバランス
といった食習慣に関するもののほかに、
- 定期的な運動が少ない
- 睡眠時間が短い
- 食後の歯磨きを怠りがち
といった特徴もあったそうです。
都道府県別の肥満状況
厚生労働省も2006~2010年の間の国民健康・栄養調査データを用い、都道府県別の肥満及び主な生活習慣の状況に関する調査を行っております。
都道府県別の肥満及び主な生活習慣の状況(厚生労働省 2010年)
これによると、日本で一番肥満者(20~69歳の男性)の割合が大きいのは沖縄県のようです。
順位 | 都道府県 | 肥満者の割合※ |
---|---|---|
1 | 沖縄県 | 45.2 % |
2 | 宮崎県 | 44.7 % |
3 | 栃木県 | 40.5 % |
4 | 福島県 | 40.3 % |
5 | 徳島県 | 40.1 % |
43 | 静岡県 | 25.2 % |
44 | 鳥取県 | 25.1 % |
45 | 滋賀県 | 23.0 % |
46 | 福井県 | 22.5 % |
47 | 山口県 | 22.1 % |
都道府県別、20~69歳男性の肥満者の割合(※ 年齢調整した値)
沖縄は長寿のイメージがあったので少し意外でしたが、実は、2013年の厚生労働省の発表によると、沖縄県の男性の平均寿命は全国30位。今では長寿の県とは言えない状態で、これにはやはり高脂肪食をとるようになった食生活の変化が関係しているようです。
NHK クローズアップ現代(2013年3月5日(火)放送)
沖縄 長寿崩壊の危機 ~日本に迫る“短命化社会”~
新たな可能性「腸内細菌叢(腸内フローラ)」
最近、全く別の観点から、肥満の原因の1つかも知れない発見がありました。それは、腸内細菌叢(腸内フローラ)です。ヒトの腸には、500~1000種類、500兆~1000兆個の腸内細菌が住んでいると言われています。これらの腸内細菌が腸内で花畑のように集団を作って群れていることから、腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれています。腸内細菌は人によって様々で、生活習慣や年齢、ストレス等によっても異なり、また、親から受け継ぐものもあるそうです。
この腸内細菌について、痩せた人と太った人を調べた研究で、両者に決定的な違いが見られたそうです。また、太ったマウスから痩せたマウスへ腸内細菌を移すと、痩せていたマウスの体重が増えたという研究報告もあります。これらについては、腸内細菌がエネルギーを効率よく吸収する手助けをしているのではないかと考えれられています。 腸内細菌は、肥満以外にも、がん、アレルギー、老化などにも関連しているのではないかという報告もあり、今後の研究が期待されます。
肥満に関連する遺伝子は40種類以上
肥満の原因3つ目は、「遺伝子」です。
根本的には、消費カロリー(エネルギー)よりも摂取カロリー(エネルギー)が多いことが、肥満の原因ですが、同じものを食べても太りやすい人とそうでない人がいます。これはエネルギーの吸収効率や消費効率に関連した遺伝子、一般に「倹約遺伝子」や「肥満遺伝子」と呼ばれたりもするものが各個人で違うからです。
ちなみに、肥満に関連する遺伝子はGWAS解析(Genome Wide Association Study)によって、現在では40種類以上同定されています。次ページでは、それらのうちの代表的な遺伝子を紹介します。
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- そうなんだ! 遺伝子検査と病気の疑問(櫻井晃洋(著) メディカルトリビューン:2013年7月)
- 体質と遺伝子のサイエンス(中尾光善(著) ベレ出版:羊土社:2015年6月)
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
- 肥満のサイエンス(ニュートン別冊 Nニュートンプレス:2014年8月)
- 遺伝子医療革命(フランシス・S・コリンズ(著) NHK出版:2011年1月)
- 実験医学 2014年2月号 Vol.32 No.3(梶村真吾(編集) 羊土社:2014年1月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
このページが役に立ったらシェアお願いします!
あわせてよく読まれる記事
-
肥満遺伝子と遺伝子検査ダイエット
同じものを食べても太りやすい人とそうでない人がいます。これはエネルギーの吸収効率や消費効率に関連した遺伝子が各個人で違うからです。この肥満遺伝子を調べて、ダイエットにいかそうという商品が販売されていますが、その効果、根拠はどうなのでしょうか。…
-
長寿のカギ?サーチュイン遺伝子とカロリー制限について
「サーチュイン遺伝子」とは、長寿に関わる遺伝子として、酵母等のSIR2遺伝子、ヒトのSIRT1遺伝子などが研究されています。この遺伝子は、カロリー制限をすると活性化し、また、赤ワインなどに含まれる「レスベラトロール」という物質でも活性化が確認されています。…
-
日本人の糖尿病に関係が深い遺伝子
糖尿病は血糖値が非常に高い状態になり、体に異常が現れる病気です。血糖値を正常に保つ働きをしているインスリンに関連する遺伝子に変異が生じると、生活習慣次第で糖尿病に罹るリスクが増加します。…