日本人の糖尿病に関係が深い遺伝子
公開日:2016年01月04日
糖尿病は血糖値が非常に高い状態になり、体に異常が現れる病気です。血糖値を正常に保つ働きをしているインスリンに関連する遺伝子に変異が生じると、生活習慣次第で糖尿病に罹るリスクが増加します。
インスリンと糖尿病
糖尿病は血糖値が非常に高い状態になり、体に異常が現れる病気です。健康な体であれば膵臓のランゲルハンス島と呼ばれる場所にあるインスリン分泌細胞(β細胞)で作られたインスリンが血液中で適切に作用して血糖値を正常に保ちますが、インスリンの分泌量が少ないあるいはその効果が低くなると糖尿病になります。このインスリンに関連する遺伝子に変異が生じると、それだけで直ちに糖尿病になるわけではありませんが、生活習慣次第で糖尿病に罹るリスクが増加します。
糖尿病の1型と2型
糖尿病には1型糖尿病と2型糖尿病の2種類がありますが、1型糖尿病と2型糖尿病では全く別の病気です。1型が肥満とは無関係に自身の膵臓のβ細胞を免疫系が攻撃してしまう病気であるのに対して、2型は肥満と関連性が高く、いわゆる私達が普段生活習慣病として考えている糖尿病のことです。なお、日本人で多いのは2型糖尿病の方で、全体の約9割を占めています。
2型糖尿病に関与する遺伝子
2型糖尿病は、単一の遺伝子の変異によって引き起こされる病気ではなく、複数の遺伝要因と環境要因が重なって発症する病気です。ちなみに、これまでに関連性が特定されている遺伝子は20種類以上あり、関連性が疑われているものを含めれば200近くにのぼります。
2型糖尿病に関与する遺伝子の染色体上の大まかな位置
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アディポネクチン遺伝子
アディポネクチンは、脂肪細胞から分泌されるタンパク質で、インスリンの感受性を上げる、動脈硬化を下げるなどの作用があります。アディポネクチン遺伝子は、このアディポネクチンの遺伝子で、3つの遺伝子多型、T/T型、G/T型、G/G型があります。G/G型はT/T型にくらべてアディポネクチンの血中濃度が3分の2に低下するため、インスリン抵抗性と糖尿病のリスクが上昇します。なお、日本人の約4割がこのG/G型であると言われています。
糖尿病と動脈硬化
アディポネクチンと糖尿病・心血管病の分子メカニズム -
TCF7L2遺伝子
TCF7L2遺伝子はWntシグナル(胚発生と癌に関連するタンパク質のネットワーク)に関連する転写因子として、細胞の癌化や諸臓器の発生・分化に重要なものと考えられていましたが、2006年、欧米人の2型糖尿病の原因遺伝子の1つとして特定され、その後日本人においても原因遺伝子となることが分かりました。TCF7L2遺伝子のSNPはインスリン分泌低下させ、2型糖尿病のリスクを高めるとされています。
The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE(2006)
糖尿病予防プログラムにおける TCF7L2 遺伝子多型と糖尿病への進行 -
KCNQ1遺伝子
KCNQ1遺伝子は11番染色体にあって、細胞のカリウムチャンネル遺伝子の1つです。このKCNQ1遺伝子がつくるKCNQ1タンパク質は、細胞内のカリウムイオンが細胞の外に出て行くときの通路の役割をしていると考えられています。また、血糖値の調節に重要なインスリンは、膵臓にあるβ細胞にブドウ糖が入ったときに、細胞内から細胞外へのカリウムイオンの流れ止まることで、その刺激がインスリンの分泌につながります。
このように、インスリン分泌に関わるKCNQ1遺伝子ですが、この遺伝子のSNPには2型糖尿病のリスクを増大させるものがあり、2本の11番染色体にこのリスク型の遺伝子を持っている人は、1つも持っていない人と比べて、2型糖尿病の発症リスクが約2倍になるそうです。
独立行政法人 理化学研究所 (2008)
2型糖尿病に関連する遺伝子「KCNQ1」を発見Nature Genetics 40, 1098 - 1102 (2008)
SNPs in KCNQ1 are associated with susceptibility to type 2 diabetes in East Asian and European populations -
KCNJ15遺伝子
KCNJ15遺伝子は、インスリン分泌に関与している遺伝子です。
糖尿病は肥満の人の病気という印象が強いですが、痩せていてもインスリン分泌量やその働きが悪ければ糖尿病に罹るリスクはあり、日本人にはこの痩せ型体型の糖尿病患者が欧米人と比べて多いそうです。KCNJ15遺伝子SNPのリスク型をもつ人は、2型糖尿病の発症リスクが1.76倍になりますが、痩せ型体型に限ると、それが1.93~2.54倍になり、さらに発症後も早期に重症化してしまいます。なおこのリスク型の変異は、欧米人ではまれで、やせ型の患者が多いアジア人に特徴的な2型糖尿病の関連遺伝子だそうです。
東京大学(2009)
2型糖尿病の新規リスク遺伝子の発見~インスリン分泌に関わり、アジア人患者と欧米人患者における体型の差にも寄与か~Am J Hum Genet. 2010 Jan;86(1):54-64
Identification of KCNJ15 as a Susceptibility Gene in Asian Patients with Type 2 Diabetes Mellitus. -
IRS1遺伝子
IRS1遺伝子は、インスリン受容体の遺伝子の1つです。IRS1遺伝子に変異を持つとインスリン抵抗性が増え、2型糖尿病の発症リスクが高くなると言われています。
1型糖尿病に関与する遺伝子
1型糖尿病に関連する遺伝子も、INS遺伝子(インスリン)、IL2R遺伝子(サイトカイン受容体)、HLA遺伝子(ヒト白血球抗原)など十数個が特定されていますが、そのほとんどが免疫反応に関連する遺伝子です。
1型糖尿病に関与する遺伝子の染色体上の大まかな位置
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- そうなんだ! 遺伝子検査と病気の疑問(櫻井晃洋(著) ディカルトリビューン:2013年7月)
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
- 肥満のサイエンス(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2014年8月)
- 遺伝子医療革命(フランシス・S・コリンズ(著) NHK出版:2011年1月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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