病気のかかりやすさも遺伝？感染症と遺伝子の関係

男性は女性よりも感染症に弱い

感染症全般において、女性よりも男性の方が感染しやすいと言われていますが、これは免疫系に関わる約80の遺伝子が性染色体であるX染色体の上にあることが関係しています。女性の場合、X染色体を2つ持っているので一方の遺伝子に異常があっても、もう一方がそれを補いますが、男性の場合はX染色体が1つしかないため、遺伝子の異常がすぐに免疫システムに悪影響を与えてしまうためです。

X染色体上の免疫系に関わる遺伝子の例

• Btk遺伝子

  抗体を作るB細胞の成熟に必要な遺伝子

• IL-2受容体共通ガンマ鎖遺伝子

  B細胞に指令を与えるT細胞の成熟に必要な遺伝子

• CD40L遺伝子

  B細胞とT細胞の指令を仲介するタンパク質CD40Lの遺伝子

X染色体の上にある免疫系の遺伝子の、染色体上の大まかな位置

エイズ耐性をもつ遺伝子

HIV（ヒト免疫不全ウイルス）によって発症するエイズは、今でも恐ろしい病気の1つですが、エイズにならないHIV耐性をもつ遺伝子変異があることが分かりました。

HIVは免疫細胞の表面にあるいくつかのタンパク質と結びつくことで細胞内に侵入しますが、そのタンパク質の1つにCCR5というものがあります。このCCR5を作る、CCR5遺伝子（3番染色体）について、塩基対が32個欠けた状態では、CCR5が全く作られず、HIVに耐性ができます。また、CCR5が全く無くても大きな悪影響はありませんが、西ナイルウイルスに感染しやすくなるとも言われています。

なお、この変異遺伝子持ちHIV耐性を持つ人はヨーロッパ人の1％程度で、アフリカ人、アジア人にはほとんどいません。これは中世にヨーロッパで流行したペストが影響しているという説や天然痘との関連性を指摘する説がありますが、まだはっきりしたことは分かっていません。

マラリアと鎌状赤血球症

マラリアは熱帯から亜熱帯に広く分布していて、蚊が媒介するマラリア原虫が病原体の感染症で、高熱や頭痛、吐き気などの症状のほか、ひどい場合は意識障害や腎不全などを起こし死に至る病気です。

一方、鎌状赤血球症は、11番染色体のβグロビン遺伝子の変異によって発症する病気で、赤血球が鎌状になり酸素を運ぶ能力が低下してしまいます。ホモ接合の場合、貧血がひどく、若いうちに死亡してしまうことが多いですが、ヘテロ結合の場合は、貧血もそれほどひどくなく通常の生活を送ることが可能です。

この鎌状になった赤血球は、マラリア原虫を体内から排除することに役立っていて、アフリカ中央部では、鎌状赤血球症になる遺伝子変異を持つ人が多いそうです。

重い結核になる遺伝子

結核にも感染しやすさに関連する遺伝子、SLC11A1遺伝子（2番染色体）、TRL2遺伝子（17番染色体）が見つかっています。特にTRL2遺伝子については、変異があると結核のうち最も重篤な症状である結核性髄膜炎に発展するリスクが高まります。