核内の遺伝子変異が引き起こす単一遺伝子疾患
公開日:2016年01月04日
単一遺伝子疾患は、1つの遺伝子の変化によって引き起こされる病気で、メンデルの遺伝法則にしたがって、優性遺伝のものと劣勢遺伝のものがあります。なおDTC遺伝子検査では単一遺伝子疾患は検査できませんが、病院で健康保険適用を受けて遺伝子診断可能なものもあります。
遺伝子診断で健康保険対象の36種類の疾患

常染色体優性遺伝病
優性遺伝の遺伝病はそれほど多くはありませんが、父母から受け継いだどちらかの遺伝子に異常があれば、発症してしまいます。また、優性遺伝の遺伝病の中でも、遺伝子がホモ接合※1でもヘテロ接合※2でも同じ症状を示す完全優性と、ヘテロ接合よりもホモ接合のほうが重い症状を示す不完全優性があります。
※1 ホモ接合:AA、aa のように同じ対立遺伝子からなる状態
※2 ヘテロ接合:Aaのように異なる対立遺伝子からなる状態
常染色体優性遺伝病の原因遺伝子の染色体上の大まかな位置
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神経繊維腫症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)
神経繊維腫症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)は、17番染色体上のNF1遺伝子の変異が原因で発症する病気です。児童期、思春期前後から体の様々な部分に、皮下腫瘤(神経線維種)とされるできものやしみなどが現れます。
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軟骨無形成症
軟骨無形成症は、4番染色体にある繊維芽細胞増殖因子受容体3(FGFR3)の変異が原因で発症する病気です。手足が胴体に比べて短く、極端に身長が低くなります。優性遺伝の病気ですが、殆どの患者が親からの遺伝ではなく、突然変異による発症と言われています。
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ハンチントン病
ハンチントン病では、4番染色体上のHTT遺伝子に特徴的な繰り返しの塩基配列があります。発症年齢は一般に30~50歳ですが、成人前に発症することもあります。進行はゆっくりで、発症初期には不随意の筋肉の引きつりや痙縮、進行すると不随意運動(舞踏病とアテトーシス)と精神機能の低下が現れ、やがて死に至ります。
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多発性嚢胞腎
多発性嚢胞腎は、尿細管の太さ(径)を調節するPKD1遺伝子(16番染色体)、PKD2遺伝子(4番染色体)の変異が原因で発症する病気です。多発性嚢胞腎には、優性遺伝のもののほかに劣性遺伝のものがありますが、これは優性多発性嚢胞腎の原因遺伝子とは別のPKHD1遺伝子の変異が原因です。多くの患者が成人になってから発症し、70歳までに約半数が透析が必要になります。また、高血圧、肝嚢胞、脳動脈瘤など、全身の合併症も示します。
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家族性高コレステロール血症
家族性高コレステロール血症は、LDL受容体遺伝子の異常が原因の病気で、生まれつき血液中の悪玉コレステロールであるLDLコレステロールが異常に増えてしまう病気です。決して珍しい病気ではなく、日本人では500人に1人程度、この遺伝子の異常を持っていると言われています。
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QT延長症候群
QT延長症候群は、7番染色体長腕に存在するHERG遺伝子に変異が生じると発症するリスクがある病気です。心室性不整脈のリスクを増大させる心臓疾患で、動悸、失神や心室細動による突然死につながる恐れがあります。ただし、この遺伝子の変異を持っていてもβ遮断薬という心臓病用の薬を服用すればリスクを大きく減らすことができるそうです。なお、この病気はあまり有名でない病気ですが、遺伝子検査ができるようになったおかげでアメリカでは4,000人に1人の割合で見つかっているそうです。リスクが分かれば、薬や自動体外式除細動器(AED)の設置などの対応を取ることができます。
常染色体劣性遺伝病
劣性の遺伝病では、ホモ接合の状態でのみ発症します。ヘテロ接合の状態では発病せず、「保因者」の状態になります。保因者は病気を発症せず通常の生活を送ることができますが、保因者同士が結婚して子供ができた場合、4分の1の確率でホモ接合となり発症する可能性があります。また、常染色体劣性遺伝病は男女で発症率が同じで、代謝性疾患に多いことが知られています。
ヘテロ接合とホモ接合
常染色体劣性遺伝病の原因遺伝子の染色体上の大まかな位置
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嚢胞性線維症(CF症)
嚢胞性線維症(CF症)は、7番染色体にあるCFTR遺伝子の変異が原因で発症する病気です。症状が進行すると肺、膵臓、小腸、肝臓の機能が損なわれます。かつてはヨーロッパで多くの子供たちの命を奪っていた病気であり、北欧には、「額にくちづけしたとき、塩辛い味がする子供よ、災いなるかな」という民間伝承もあります(嚢胞性線維症の初期症状で、汗の中に塩分が過剰に分泌されるため)。
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ウィルソン病(肝レンズ核変性症)
ウィルソン病(肝レンズ核変性症)は、13番染色体長腕にあるATP7B遺伝子の変異が原因で発症する病気です。銅が体内に蓄積する病気ですが、治療法が確立されている数少ない先天性代謝異常症の一つでもあります。
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アルビノ(先天性白皮症)
アルビノ(先天性白皮症)は、11番染色体にあるTYR遺伝子の変異が原因で発症します。メラニン色素がほとんど体内で作られず、白い皮膚、薄い金髪、薄い色の虹彩などの外見的特徴のほか、虹彩が光を遮る機能が弱いために視力が低下しやすく、また、日焼けの影響が強いため皮膚がんになりやすいといわれています。
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フェニルケトン尿症
フェニルケトン尿症は、12番染色体にあるPAH遺伝子の変異が原因で発症します。生後数か月~2歳頃までに脳の発達障害をきたし、重度の精神発達遅滞、小頭症、てんかんなどの症状を示しますが、早期治療によって精神発達遅滞などは防ぐことができ、健常者と同じ生活を送ることができるそうです。なお、日本では新生児7~8万人に1人の割合で起こり、全国で年間20人ほど発見されている遺伝性疾患です。先天性代謝異常症の中では最も多く、日本では現在、全ての新生児に対して新生児マススクリーニング※を行い、早期治療に役立てています。
※ 新生児マススクリーニング:先天的な病気を早期発見するために、新生児(生後1~4週間)全員に対して公費で行なわれる検査。
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アルカプトン尿症
アルカプトン尿症は、3番染色体長腕にあるHGD遺伝子の変異が原因で発症する病気です。この患者の尿が空気に触れると黒く変色することが特徴です。子供のあいだは尿の黒変以外の症状はあまり現れませんが、成人以降は、組織黒変症、股関節と膝の関節炎、慢性的な腰痛、腎臓結石、前立腺結石などを発症します。
伴性遺伝
性染色体(X染色体)の遺伝子に依存し、男性と女性で現れ方がちがう遺伝を伴性遺伝と呼びます。性染色体のX染色体に異常があると、女性の性染色体はXXであるのに対し、男性はXYであるため、男性のほうが重い症状になりやすいのです。遺伝病には、常染色体同様、優性の伴性遺伝病と劣勢の伴性遺伝病があります。
伴性遺伝病の原因遺伝子の染色体上の大まかな位置
伴性優性遺伝の例
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色素失調症(ブロッホ・サルツバーガー症候群)
色素失調症(ブロッホ・サルツバーガー症候群)は、X染色体のIKBKG遺伝子の変異によって発症し、男児の場合は影響が致死的であるため、流産する場合がほとんどです。皮膚、髪、歯、爪、目、中枢神経に症状が現れる疾患で、特徴的な皮膚病変は、水疱期(出生時から4ヶ月まで)→ 疣状発疹期(数ヶ月)→ 渦巻状色素沈着期(生後6ヶ月から成人まで)→ 線状色素消退期 と進行していきます。また、脱毛、歯牙欠損、歯牙形態異常、爪の栄養障害、白内障、緑内障、網膜剥離、知的障害などを併発します。
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レット症候群
レット症候群は、X染色体のMECP2遺伝子の変異によって発症する病気ですが、まれにCDKL5遺伝子、FOXG1遺伝子の変異による報告例もあります。乳児期早期に発症し、睡眠、筋緊張の異常、姿勢運動の異常、ジストニア、側彎、情動異常、知的障害、てんかんなどの症状が現れます。
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アルポート症候群
アルポート症候群は、約8割がX染色体のCOL4A5遺伝子の変異による伴性優性遺伝ですが、2番染色体のCOL4A3遺伝子とCOL4A4遺伝子の変異による常染色体劣性遺伝のケースもあります。感音性難聴、白内障などの眼異常を伴う進行性腎炎で、幼児期の血尿から年齢とともに蛋白尿が出現し、20歳前後までに腎不全になってしまいます。
伴性劣性遺伝の例
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血友病
血友病は血液凝固因子の異常であり、出血がなかなか止まらない病気です。これは血液を凝固させるタンパク質の第Ⅷ因子または第Ⅸ因子が働かないためであり、それらの遺伝子もX染色体上にあります。
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赤緑色覚多型(赤緑色覚多型異常)
眼の中には色を感じるオプシンというタンパク質3種類がありますが、それぞれ光の三原色(赤、青、緑)に対応しています。このうち、赤と緑に対応するオプシンの遺伝子はX染色体上にあり、これがうまく働かないと赤または緑の色覚が失われる赤緑色覚多型(赤緑色覚多型異常)になります。
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筋ジストロフィー(デュシェンヌ型)
筋ジストロフィーは、筋線維の変性・壊死と再生を繰り返しながら、次第に筋萎縮と筋力低下が進行していく遺伝性疾患です。原因には、常染色体優性遺伝のもの、常染色体劣勢遺伝のものもありますが、大部分を占めるのが伴性劣性遺伝のデュシェンヌ型、X染色体短腕にあるジストロフィン遺伝子の変異に起因するものです。
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- 学んでみると遺伝学はおもしろい(針原伸二(著) ベレ出版:2014年3月)
- 遺伝子医療革命(フランシス・S・コリンズ(著) NHK出版:2011年1月)
- 生命解読(中西真人(編さん) 日経サイエンス社:2015年10月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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