病院で受ける遺伝子診断とDTC遺伝子検査の違い
公開日:2015年10月23日
病院で受ける遺伝子診断(遺伝学的検査)とDTC遺伝子検査との違いは、それが医療行為の「診断」にあたるかどうかです。単一の遺伝疾患や遺伝的要因によって発症する可能性が極めて高い疾患の調査は「診断」にあたるため、DTC遺伝子検査では実施していません。

DTC遺伝子検査では、医療行為とみなされる遺伝性疾患の診断は行いません。
医療行為かそうでないかの違い
病院で受ける遺伝子診断(遺伝学的検査)とDTC遺伝子検査との違いは、それが医業、医療行為であるかどうかです。
日本では、法律によって、
医師でなければ、医業をなしてはならない。(医師法第17条)
と定められ、「診断」もこの医業に含まれるとされます。
遺伝子を調べて、将来病気になることがほぼ確実になる、あるいは、極めて高い確率で発症しうることが分かれば、それは「診断」行為とみなされます。そのため、単一の遺伝子が引き起こす疾患や遺伝的要因によって発症する可能性が極めて高い疾患(アンジェリーナ・ジョリーさんの両乳房切除で有名になった乳がんの「BRCA1」遺伝子など)は、DTC遺伝子検査では調べることができず、少数の遺伝子だけでは「診断」できない、複数の遺伝子や環境因子が複雑に影響する疾患(生活習慣病など)や体質についてのみ、検査を行います。
一方、病院で実施される遺伝子診断は、一部の例外を除いて、DTC型で行っているような予測的診断は行っていません。それは、医療現場で使えるほどには十分な知見がたまっていないという判断からです。そのため、すでに学会で広く定説として定着している単一の遺伝子が引き起こす疾患などを主に検査対象としています。
(AGA(男性型脱毛症)、ダイエット(肥満遺伝子)、アルコール代謝等については、検査を実施している医療機関もあります。)
- すでに発症している、あるいは、親族に発症している人が多い、重篤で「特殊な」遺伝性の病気に対して、医師の診断を必要とする対処を目的とするのならば、病院での検査
- 生活習慣病などの誰にでも起こりうる「ありふれた」病気に対して、医師の診断を必要としない自己対処(生活習慣の改善など)を目的とするならば、DTC型の検査
と、目的別で考え、これら2つをうまく利用していくべきでしょう。
病院で実施している主な遺伝子診断(遺伝学的検査)
- 確定診断、鑑別診断
- 病院:○ DTC:×
症状を示す患者や特定の遺伝性疾患のリスクのある胎児を対象に、既知もしくは疑いのある遺伝性疾患を確定させるための検査 - 非発症保因者診断(保因者診断)
- 病院:○ DTC:×
症状は発生していないが、遺伝病の保因者(遺伝病の原因となる遺伝子を持っているかどうか)であるかどうかの検査 - 発症前診断
- 病院:○ DTC:×
遺伝子の異常によって、発症する前に将来の発症がほぼ確実に予測することができる疾患に関する検査 - 出生前診断
- 病院:○ DTC:×
親族に遺伝性疾患を持っている人が多い場合などに、生まれてくる子供に遺伝性の異常がないかどうかを調べる検査 - 予測的診断(易羅患性検査)
- 病院:△ DTC:○
発症に多数の遺伝子や環境因子が関与する、多因子性疾患の発症リスクの推定を目的とした疾患感受性遺伝子の解析
健康保険が適用されるものはごく一部
欧米では4,600項目以上が検査可能ですが、日本の医療機関で受けることができる遺伝子診断は144項目です。※
また、健康保険が適用されるのは、筋ジストロフィーやハンチントン病など36種類の病気(2015年時点)に限られ、がんや出生前診断には適用されません。そのため、健康保険適用外の検査を受けようとした場合、自由診療となり、費用は全額自己負担(数万~数10万円)となります。
検査項目の少なさや健康保険の適用が一部に限られていることなど、今後改善されてほしい課題です。
※ 遺伝学的検査をめぐる課題の抽出について(厚生労働省 2015年7月)
遺伝子診断で健康保険対象の36種類の疾患
- デュシェンヌ型筋ジストロフィー
- ベッカー型筋ジストロフィー
- 福山型先天性筋ジストロフィー
- 栄養障害型表皮水疱症
- 家族性アミロイドーシス
- 先天性QT延長症候群
- 脊髄性筋萎縮症
- 中枢神経白質形成異常症
- ムコ多糖症Ⅰ型
- ムコ多糖症Ⅱ型
- ゴーシェ病
- ファブリ病
- ポンペ病
- ハンチントン舞踏病
- 球脊髄性筋萎縮症
- フェニルケトン尿症
- メープルシロップ尿症
- ホモシスチン尿症
- シトルリン血症(1型)
- アルギノコハク酸血症
- メチルマロン酸血症
- プロピオン酸血症
- イソ吉草酸血症
- メチルクロトニルグリシン尿症
- HMG血症
- 複合カルボキシラーゼ欠損症
- グルタル酸血症1型
- MCAD欠損症
- VLCAD欠損症
- MTP(LCHAD)欠損症
- CPT1欠損症
- 筋強直性ジストロフィー
- 隆起性皮膚線維肉腫
- 先天性銅代謝異常症
- 色素性乾皮症
- 先天性難聴
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