DTC遺伝子検査の流れ、方法
公開日:2015年10月23日
DTC遺伝子検査のステップは、おおむね次のような流れになっています。
最終的に検査結果が手元に届くまでの期間は、各社によって異なりますが、おおむね数週間~2か月程度です。
DTC遺伝子検査の流れ
1、検査キットの購入
まずは遺伝子検査を行うため、検査キットを購入します。
ネットで購入するものや店頭販売、医療機関で申し込むものもあります。
ネット申込みの場合、検査キットが自宅に届くのは、だいたい数日~1週間程度です。
2、検体の採取、郵送
次に、キットの中に含まれている道具を使って、検体を採取します。
検体となるのは、「唾液」、「口内粘膜」、「爪」などが多いです。
検体を採取した後は、なるべく早めに検体を事業者へ返送しましょう。
3、DNAの抽出、解析
検査会社へ郵送された検体は、個人が特定できないように検体を匿名化したのち、検査施設へ送られ、解析されます。
なお、遺伝子の解析は、社内の検査施設で行う会社と、外部の専門業者に委託している会社があります。
3-1 DNAの増幅
遺伝子解析センターに運ばれた唾液、口内粘膜などの検体は、そのままでは解析できません。まずは、検査装置でDNAが読み取れる量になるまで、DNAを増幅させます。DNAの増殖にはPCR法などが用いられます。
PCR法
PCR(Polymerase Chain Reaction :ポリメラーゼ連鎖反応)法は、ごく微量のDNAを指数関数的に増やすことが出来る方法で、数時間で100万-1000万倍に増幅することが可能です。
- 鋳型となる2本鎖DNAを95℃で熱変性させて、1本鎖DNAに解離させます。
(95℃程度に温度を上昇させると、2本鎖のDNAの塩基間の水素結合が切れて、一本鎖に解離します。) - 55℃まで温度を下げて、1本鎖DNAにプライマー(化学合成した短いオリゴヌクレオチド)を結合させます(アニーリング)。
- 再び72℃まで温度を上げると、プライマーが結合した箇所をスタート地点として、DNAポリメラーゼ( DNA鎖を合成する酵素)がDNAを合成開始します。
- 1~3を繰り返すことで、1本 → 2本 → 4本 → 8本 → 16本 … とDNAが指数関数的に増えていきます
PCRの流れ
3-2 DNAを解析
次に、増幅させたDNAを解析します。DTC遺伝子検査におけるこのDNA解析では、現在DNAマイクロアレイ法が主流になっています。マイクロアレイは2000年に登場した技術で、この10年ほどでコストが1/30~1/50に下がっており、SNPの検出精度も向上してきています。
DNAマイクロアレイ
DNAマイクロアレイはDNAチップとも呼ばれ、遺伝子の発現量を測定するために、多数のDNAプローブ※をプラスチックやガラスの基板上に高密度に配置したものです。1つのチップで、数万~数十万の遺伝子をチェックできるようになっているため、一度に大量の遺伝子多型、SNP(1塩基多型)の解析が可能です。
※ DNAの各塩基がAはT、GはCとのみ結合することを利用して、特定のDNA配列と結合させる(ハイブリダイゼーション)ための釣り針のようなもの
DNAマイクロアレイ、DNAチップについて、もっと詳しく知るには
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次世代シーケンサー(NGS)
DTCでよく使用されているマイクロアレイですが、この技術は、全遺伝子の調査には不向きです。また、DNAプローブに結合させるため、検知したいDNA配列は、事前に分かっている必要があります。
これらの弱点を克服できる次世代シーケンサーが2007年に登場し、全ゲノムシーケンス解析に利用されるようになってきました。当初はコストの問題がありましたが、それも下がりつつあり、2014年1月にはアメリカのイルミナ社が「1,000ドル以下で個人の全ゲノムを配列決定できる」というシステム「HiSeq X Ten」を発表しています。
次世代シーケンサーは、遺伝性疾患の原因遺伝子の発見にも革新的な進歩をもたらしており、いずれDTCでも利用されるようになるだろうといわれています。
「HiSeq X Ten システム」(イルミナ社 サイト より)
次世代シーケンサーについて、もっと詳しく知るには
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シークエンサーの仕組みと「1,000ドルゲノム」時代
ヒトの全ゲノムの解読が約13年の歳月と約3500億円の費用をかけて完了したのが2003年のこと。それが今では、約10万円の費用をかければ1日足らずで済むほど、ゲノム解析の技術革新が進んでいます。…
3-3 SNPからリスク等を推定
検出されたSNPと学術論文をもとに、将来の疾患リスク等を推定します。なお、このとき、リスク推定に使用されるSNPや論文およびリスク計算アルゴリズムは、各社によって異なります。同じ検査項目でも検査を依頼する会社によって検査結果が異なるのは、このようにリスク推定の根拠にしている情報が異なるからです。リスク推定の方法は、いずれ業界で標準化がなされていくのではないでしょうか。
検査の信頼性について、もっと詳しく知るには
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DTC遺伝子検査の精度と信頼性・信憑性
DTC遺伝子検査を受けるにあたって、最も気になるのは、その精度と信頼性・信憑性です。この点について、経済産業省は、3つの課題「分析の質の担保」「科学的根拠」「情報提供」について論点整理を行っていますのでは、これらについて解説します。…
4、結果の報告
検査結果が生活改善のためのアドバイス等とともに郵送または会社のサイト上のマイページ等で確認できるようになります。リスク判定の根拠論文等も検査結果の中に記載されています。
なお、この分野の進展は速いので、病気や体質と遺伝子に関する新しい情報が得られれば、その都度検査結果に反映してくれる会社もあります。
また、検査結果に疑問に思ったことや不安になったことに電話やメールで答えてくれる専門の遺伝カウンセラーを用意している会社もあります。
5、ビジネス展開
会社によっては、得られた遺伝子検査結果をもとに、健康、美容、運動関連商品の販売を行います。DTC遺伝子検査が始まったころは、こちらのビジネス展開がメインでしたが、最近は、検査だけを商品として販売している会社も増えています。
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
- 遺伝子診断の未来と罠(増井徹(編集)ほか 日本評論社:2014年9月)
- 月刊 薬事 2012年 05月号(じほう:2012年5月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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