DTC遺伝子検査を受けるデメリット、問題点
更新日:2016年02月26日
遺伝子検査を受ける意味は、「生活習慣改善の動機づけ」にあることを説明しました。では逆に、遺伝子検査を受けるあたって、理解しておかないといけないデメリット、問題点は何でしょうか。
DTC遺伝子検査を受けるときは、唾液または口内粘膜を採取するだけなので、身体的な負担はほとんどありません。また、DNA解析技術の進歩と研究の進展により、検査を受ける経済的負担もそれほど大きいものではありません。ゆえに主なリスクとしては、検査結果がもたらす心理的負担と「遺伝子差別」の可能性でしょう。
このページの目次
遺伝子検査に関する知識まとめ
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遺伝子検査に関する知識まとめ
遺伝子検査って何を調べるの? 病院での検査との違いは? どうして会社によって検査結果が異なるの? など、遺伝子検査に関する様々な疑問や検査キットの選び方など、遺伝子検査に関する知識をわかりやすくまとめました。…
将来への心理的負担
DTC遺伝子検査で検査される項目は、多因子性疾患で、そのリスク判定が「将来必ずこの病気になる」というものではありません。また、高リスクの判定が出ても、それは喫煙による肺がんリスクなどと比べれば低いものです。しかし、リスクがあることを知れば、だれもが不安に思わずにはいられません。
この点から、遺伝子検査に関する各種ガイドラインでは、専門家によるカウンセリング体制の整備を促しています。しかし全ての遺伝子検査会社が十分な体制が整えているとはいえない状況です。遺伝子検査会社を選ぶときには、値段や検査項目だけでなく、どういったアフターフォロー体制を用意しているかも、チェックポイントです。
【専門のカウンセラーが在籍している会社の例】
DeNAライフサイエンス、ジーンクエスト など
「遺伝子差別」につながるリスク
遺伝子検査から得られる遺伝情報は、特定の疾患の発症リスクを示してくれるので、それを元に生活習慣の改善を検討することができます。しかし、その遺伝情報が第3者に渡った時、「遺伝子差別」につながる恐れがあります。
例えば、ある保険加入希望者が将来のがん発生リスクを非常に高める遺伝子を持っていたとします。現時点ではその人の健康に問題はありませんが、保険会社の人はその人の保険加入を認めるでしょうか。遺伝子差別を禁止する法律が無ければ、おそらくノーでしょう。
このように、遺伝情報は、きちんとした法整備がなされなければ、保険や雇用などの面で、差別につながる恐れがあります。そのためアメリカは、「米国遺伝子情報差別禁止法(Genetic Information Non-Discrimination Act:GINA)」(2008年)をつくり、遺伝子情報に基づく健康保険に関する差別(加入の資格や保険料の決定など)、雇用者による差別(雇用、解雇、仕事の割当、昇進や降格の決定など)を禁止しています。(ただし、生命保険、所得補償保険、長期介護保険は適応外。)しかし、それでも保険や雇用面での遺伝子情報に関するトラブルは発生しているようです。
「遺伝子検査」で危惧される「差別」「プライバシー」の問題
http://www.huffingtonpost.jp/foresight/genetic-test_b_6459784.html
一方日本では、そもそも遺伝子差別を禁止する法律がありません。ガイドライン等の整備は進行中ですが、現状、各企業の自主性に任せている状況です。法律の整備は、急いで進めて頂きたいですが、遺伝子検査結果をむやみにブログ等で公表するのは、控えたほうが良さそうです。
特定の疾患リスクを高めるSNPを持つことが分かれば、保険加入や就職の面で、不利になるかもしれない
不安、リスクを親族と共有することになることも
遺伝子は親から子へ受け継がれ、親族間では非常に似たものになります。このことは、あなたが遺伝子検査を受けて得られた情報は、かなり高い確率であなたの親族にも当てはまるということです。あなたが受けた検査の結果があなたの親族・家族に伝わると、「将来への心理的負担」や「遺伝子差別のリスク」をあなたの親族・家族も負う事になるかもしれません。
遺伝情報はあなただけのものではないことをきちんと理解したうえで、検査によって得られる情報をその後自分がどう利用し、管理していくかについても、あらかじめ考えておく必要があるでしょう。
会社によって異なる検査結果
最後に、遺伝子検査サービスを提供する会社によって検査結果が異なることも、問題点の1つに上げておきたいと思います。
今のところ、リスク推定に使用されるSNPや論文およびリスク計算アルゴリズムは、各社によって異なります。一般的な病気には、多数の遺伝子が複雑に影響していて、そのメカニズムの全てが明らかになっているわけではありません。同じ塩基配列をもとにリスク計算を行っていたとしても、根拠にする情報が各社違っていれば、仮に各社のリスク計算がきちんと科学的なものであったとしても、結果は異なります。
一般的な病気には、複数の遺伝子が複雑に影響していて、そのメカニズムの全てが明らかになっているわけではありません。
また、検査会社によって調べる遺伝子のSNP、根拠とする論文、リスク推定アルゴリズムが異なります。
そのため、同じ病気であっても、検査会社によって異なるリスク推定がなされる場合があります。
ただこれは、現時点では仕方のないことかもしれません。いずれ業界でリスク推定の標準化がなされていくことを期待したいです。また、その観点からも遺伝子検査は、検査結果通知後も検査結果を最新の情報に更新し続けてくれる会社を選ぶのがよいでしょう。
【継続的に検査結果のアップデートを行ってくれる会社の例】
DeNAライフサイエンス、ジーンクエスト、Yahoo! JAPAN など
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