DTC遺伝子検査の調査項目
- 分かること、分からないこと -
更新日:2016年10月18日
DTC遺伝子検査では、SNPを調査し、多数の遺伝因子や環境因子が絡んだ疾患の将来的なリスクや体質等の傾向についての情報を提供します。一方、「単一遺伝子疾患」、「家族性がん(遺伝性のがん)」等については、医師法に抵触してしまうことなどから、ほぼサービス対象外です。
DTC遺伝子検査のサービス提供範囲
DTC遺伝子検査では、SNPを調べることで、多数の遺伝因子や環境因子が絡んだ疾患のリスクや体質等の傾向に関する情報を提供します。ただし、すべての遺伝要因がわかっているわけではありませんので、遺伝子検査結果で得られる情報は、一部のSNPによる情報のみになります。
また、1つの遺伝子の影響が大きい「単一遺伝子疾患」、「家族性がん(遺伝性のがん)」などについては、DTC遺伝子検査では調査しません。これは、そのような遺伝子を調べることが医療行為にあたり、医師法に抵触してしまうこと、民間サービスレベルではそれらの遺伝子の解析が困難であること、などのためです。
そのため、アンジェリーナ・ジョリーさんが受けた乳がん検査のようなものは、日本のDTC遺伝子検査では受けることができません。
【DTC検査での検査項目】
- 多因子性疾患に関する将来的な発症リスクの検査
- 体質検査(肥満、薄毛、肌質など)
- 学習能力に関する検査
- 運動能力に関する検査
- 性格に関する検査
- 先祖の調査
DTC遺伝子検査について、もっと詳しく知るには
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DTC(Direct-to-Consumer)遺伝子検査の登場
検査技術の向上、人々の健康意識の高まりなどから、日本でも最近、医療機関を介さない遺伝子検査、DTC(Direct-to-Consumer)遺伝子検査が増えてきています。これは主に体質や疾患リスクに関する傾向などを、医療機関を介さずに直接消費者に提供するサービスですが…
乳がんの遺伝子検査について、もっと詳しく知るには
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疾患リスクの調査
疾患に関係する遺伝子(遺伝子多型)には、
- (1) 疾患発症と強く関連するものの持っている人が極めて少ない疾患原因遺伝子多型
- (2) 疾患発症のリスク上昇は少しであるものの多くの人が持っている疾患感受性遺伝子多型
があります。
医療機関での検査は、主に単一遺伝子疾患などの (1) の疾患原因遺伝子多型を調べます(先の乳がん検査もこちらに当たります)。また、成人を対象にした検査のほかに、母親のおなかの中にいる赤ちゃんに遺伝性の異常がないかどうかを調べる「出生前診断」※2というものも行われています。
一方、民間企業が参入している、インターネット等から申し込みができるDTC(Direct-to-Consumer)型の遺伝子検査では、2の疾患感受性遺伝子多型がメインです。これは、1の疾患原因遺伝子多型を調べることは医療行為に当たり、医師法に抵触するおそれがあるためです。
※1 乳がんの遺伝子検査
乳がんの例では、BRCA1、BRCA2という2つの遺伝子が強く関連しており、アンジェリーナ・ジョリーさんの場合もBRCA1に異常が見つかっていました。日本ではまだまだ受診者の少ない乳がん遺伝子検査ですが、アメリカでは1996年頃から行われはじめ、今では年間10万人が受けているそうです。
※2 出生前診断
検査には、羊水中の胎児由来の細胞を検査する「羊水検査」、受精後あまり期間がたっていない胚(卵子が受精後、細胞分裂を始めた初期段階)から細胞を少しとって検査する着床前診断、母親の血液にわずかに含まれる胎児のDNAを調べる「母体血胎児染色体検査(NIPT)」などがあります。
病気と遺伝子について、もっと詳しく知るには
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病気と遺伝子 - 遺伝子疾患とよくある病気(common disease)
近年、GWAS解析(Genome Wide Association Study)によって、病気に影響を及ぼす遺伝子がたくさん見つかっています。ここでは、これら病気の要因となっている遺伝子を紹介したいと思います。…
体質の調査
遺伝子と体質の関係も、GWAS解析(Genome Wide Association Study)によって近年少しずつ明らかになってきています。その中には、疾患同様、たった一つの遺伝子で決まる体質(耳垢のタイプ(ウェット/ドライ)、血液型 など)もあれば、複数の遺伝子が関係する体質(高血圧、アレルギー など)もあります。(詳しくは、SNPとポリジーンの項目参照)
しかし、体質の検査で最も関心が高いのは、やはり肥満についてでしょう。肥満との関係性については、「β3AR」「UCP1」「β2AR」の3つの遺伝子が有名で、この3つの遺伝子に異常が無いかを調べている会社が多いです。ただし、体質は遺伝子だけで決まるものではなく、生活習慣、環境も大きく影響します。例えば背の高さなどは、骨形成に関わる遺伝子、栄養吸収に関わる遺伝子のほかに、睡眠や運動なども複雑に影響を及ぼしていると言われています。
体質と遺伝子について、もっと詳しく知るには
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個人の能力・才能の調査
運動能力や芸術的才能と遺伝との関係は昔から指摘されてきましたが、能力・才能と深く関わっている遺伝子が見つかっています。例えば、瞬発力が必要な短距離向きの筋肉か、持久力が必要な長距離向きの筋肉か、これには、筋肉を構成するタンパク質の一つαアクチン3の遺伝子ACTN3が関わります。また、音楽やダンスに不可欠なリズム感にはSLC6A4という遺伝子が関わり、集中力にはDRD4という遺伝子が関わっていることが分かってきました。
ただし、特定の分野で成功するために、その遺伝子が絶対必要かというと、そうではないようです。あくまで、多くのプラス要素のうちの一つ(ただし、比較的ウェイトが大きめな要素)ですので、遺伝子検査の結果で、自分の子供の可能性を狭めてしまうようなことは避けたいですね。
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DTC遺伝子検査を可能にしたGWAS
近年、遺伝子と疾患、体質等の関係が次々と報告され、DTCのみならず医療分野での応用が期待されていますが、これに貢献しているのが、GWAS(Genome Wide Association Study)です。
(参考) http://www.genome.gov/gwastudies/
GWASは、ある疾患や量的形質(有り無しではなく、身長などのように連続した数値で示される形質)を持つ人の集団に対して、ゲノムのSNPと疾患、量的形質との関連を統計的に調べる方法です。2005年頃から、このGWASによる遺伝子と疾患、体質との報告が相次いでいます。
なお、GWASで見つかった疾患感受性遺伝子(疾患発症のリスク上昇は少しであるものの高頻度でみられる遺伝子の多型)を持つ場合での特定の疾患の起こりやすさ(オッズ比)は、ほとんどが1.1~1.5程度と低いものです。つまり、遺伝子検査の結果だけで、将来の疾患発症を予測することは困難であり、遺伝要因よりも環境要因による発症リスクが高い病気も少なくないことを、私たちは十分理解しておく必要があります。
遺伝的要因が高い遺伝病から、複数の遺伝子が少しずつ関与する生活習慣病、遺伝子の関与が弱い感染症や後天的あるいは環境因子の関与が強くなる日常のけがなどがある
リスクが1.5倍とは、どういう意味か
遺伝子検査の結果レポートには、ある病気に対して「発症リスクが1.5倍」といような表示があります。これは、「あなた個人が1.5倍その病気にかかりやすい」、というようにとらえがちですが、そうではありません。回りくどい言い方になってしまいますが、「あなたと同じ遺伝子型を持つ人たちの疾患リスク分布が、そうでない人たちの疾患リスク分布と比べて、リスクの平均値が1.5倍」という意味です。分かりにくいので、絵で表してみましょう。
あくまで検査した遺伝子の範囲で、グループ間の平均値を比べたものです。実際は、そのほかの遺伝子や生活環境の影響など、多くの要因によって病気は発症するのですが、今の遺伝子検査の技術では、あなた個人の発症リスクまでは判定できません。
また、肺がんなどでは、タバコを吸う人はタバコを吸わない人に対して、発生リスクが3~5倍になると言われていますが、DTC遺伝子検査でのリスク判定は、高いとされるものでも、1.5倍程度のものが多いです。1.5倍と聞くととても大きな差のように思われますが、日常生活の中にあるリスクと比べると、少し微妙な気もします。
検査を受ける意味・必要性はあるのか
では、DTC遺伝子検査を受ける意味、必要性はあるのでしょうか。結論から言うと、「ある」といえます。それは、発症リスクのある遺伝子多型を告知されることで、疾患の発症リスクを下げるための生活習慣改善の強い動機づけになり、さらには医療介護費の削減につながる可能性があるからです。
(「多因子疾患の遺伝子多型告知による生活習慣改善動機づけの成果」 遺伝子医学MOOK28号4-2 P207-214(2015年) より)
その点から言えば、DTC遺伝子検査を受けるのであれば、遺伝子検査結果と生活習慣改善のポイントを分かりやすく解説してあったり、アフターフォローがしっかりしている会社の遺伝子検査を受けるのがよいでしょう。
【生活改善アドバイスやアフターフォローがある会社の例】
DeNAライフサイエンス、サインポスト など
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- そうなんだ! 遺伝子検査と病気の疑問(櫻井晃洋(著) ディカルトリビューン:2013年7月)
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
- 遺伝子医療革命(フランシス・S・コリンズ(著) NHK出版:2011年1月)
- 月刊 薬事 2012年 05月号(じほう:2012年5月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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