遺伝子検査とは? - 種類や費用など -
更新日:2016年10月25日
遺伝子検査とは、DNAから遺伝子を解析し、体質や遺伝性疾患、病気のリスクなどを調べる検査です。この章では、身近になったDTC型の遺伝子検査を中心に、遺伝子検査の種類やその信頼性などについて、解説します。
遺伝子検査の種類
遺伝子検査とは、一言で言うと、DNAから遺伝子を解析し、体質や遺伝性疾患、将来かかるリスクが高い病気などを調べる検査です。最近はテレビやネットでもよく耳にする「遺伝子検査」ですが、医学関連学会(「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」より)では、次の3種類が定義されています。
- (1) 病原体遺伝子検査(病原体核酸検査)
- ヒトに感染症を引き起こすウイルス、細菌などのDNA等を検出・解析する検査です。(患者さんの遺伝子を調べるものではありません。)特定の感染症に感染していないかどうかを調べるためなどに使われていて、現在の医療現場で欠かせない技術になっています。
- (2) ヒト体細胞遺伝子検査
- 癌(がん)化している細胞の中から、がん細胞特有の遺伝子の異常などを検出し、病状とともに変化し得る”一時的な”遺伝子情報を明らかにする検査です。こちらも病院などで白血病の検査などに使用され、進行中のがんの治療に役立てられます。(テレビやネットで「遺伝子検査キットを使って調べるがん検査」が話題ですが、こちらは将来のリスクを調べるもので、(3) のヒト遺伝学的検査の1つです。)
- (3) ヒト遺伝学的検査
- (2) ががん細胞内で変化している遺伝子を調べるのに対して、(3) のヒト遺伝学的検査は、基本的にその人が生まれつき持っている、一生変わらない遺伝子の特徴を調べる検査です。一昔前までは、病院で受ける特殊な検査や刑事事件のDNA鑑定などのイメージでしたが、DNAの解析技術が飛躍的に発展した結果、今では自宅にいながら数千円から数万円で検査が受けられる時代になり、その人の体質や将来の病気リスクなどを調査するサービスが出てきています。
このように定義されている遺伝子検査ですが、最も多く利用されているのが、(1) の病原体遺伝子検査で、全体の9割以上を占めます。
第7回遺伝子・染色体検査アンケート調査(日本衛生検査所協会:2014年3月) より
しかし「遺伝子検査」といえば、3のヒト遺伝学的検査をイメージする人が多いと思います。そこで、このヒト遺伝学的検査について、利用目的別にもう少し詳しく見てみましょう。
ヒト遺伝学的検査の利用例
疾患リスクを調べるために
遺伝子の違いが疾患の要因になることは、SNPやポリジーンのページですでに述べましたが、実際、遺伝子検査という言葉を知ったきっかけは、アメリカの女優アンジェリーナ・ジョリーさんが乳がんを予防するため両乳房を切除した※1、というニュースだという人が多いと思います。
なお、疾患に関係する遺伝子(遺伝子多型)には、
- (1) 疾患発症と強く関連するものの持っている人が極めて少ない疾患原因遺伝子多型
- (2) 疾患発症のリスク上昇は少しであるものの多くの人が持っている疾患感受性遺伝子多型
があります。
医療機関での検査は、主に単一遺伝子疾患などの (1) の疾患原因遺伝子多型を調べます(先の乳がん検査もこちらに当たります)。また、成人を対象にした検査のほかに、母親のおなかの中にいる赤ちゃんに遺伝性の異常がないかどうかを調べる「出生前診断」※2というものも行われています。
一方、民間企業が参入している、インターネット等から申し込みができるDTC(Direct-to-Consumer)型の遺伝子検査では、2の疾患感受性遺伝子多型がメインです。これは、1の疾患原因遺伝子多型を調べることは医療行為に当たり、医師法に抵触するおそれがあるためです。
※1 乳がんの遺伝子検査
乳がんの例では、BRCA1、BRCA2という2つの遺伝子が強く関連しており、アンジェリーナ・ジョリーさんの場合もBRCA1に異常が見つかっていました。日本ではまだまだ受診者の少ない乳がん遺伝子検査ですが、アメリカでは1996年頃から行われはじめ、今では年間10万人が受けているそうです。
※2 出生前診断
検査には、羊水中の胎児由来の細胞を検査する「羊水検査」、受精後あまり期間がたっていない胚(卵子が受精後、細胞分裂を始めた初期段階)から細胞を少しとって検査する着床前診断、母親の血液にわずかに含まれる胎児のDNAを調べる「母体血胎児染色体検査(NIPT)」などがあります。
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遺伝子と体質の関係も、GWAS解析(Genome Wide Association Study)によって近年少しずつ明らかになってきています。その中には、疾患同様、たった一つの遺伝子で決まる体質(耳垢のタイプ(ウェット/ドライ)、血液型 など)もあれば、複数の遺伝子が関係する体質(高血圧、アレルギー など)もあります。(詳しくは、SNPとポリジーンの項目参照)
しかし、体質の検査で最も関心が高いのは、やはり肥満についてでしょう。肥満との関係性については、「β3AR」「UCP1」「β2AR」の3つの遺伝子が有名で、この3つの遺伝子に異常が無いかを調べている会社が多いです。ただし、体質は遺伝子だけで決まるものではなく、生活習慣、環境も大きく影響します。例えば背の高さなどは、骨形成に関わる遺伝子、栄養吸収に関わる遺伝子のほかに、睡眠や運動なども複雑に影響を及ぼしていると言われています。
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ただし、特定の分野で成功するために、その遺伝子が絶対必要かというと、そうではないようです。あくまで、多くのプラス要素のうちの一つ(ただし、比較的ウェイトが大きめな要素)ですので、遺伝子検査の結果で、自分の子供の可能性を狭めてしまうようなことは避けたいですね。
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安全に薬を使うために
遺伝子検査の応用が最も期待されているの分野の1つが、オーダーメイド医療(テーラーメイド医療)です。最近、特定の遺伝子が、薬の副作用の出やすさなどに関係することが分かってきました。
薬の効きやすさは、人によって個人差がありまが、これは、主に、体内で薬を分解する効率(薬に対する代謝酵素の活性の違い)が人の遺伝子によって違うからです。効率が良すぎると薬が早く分解されてしまい、薬が効きにくく、逆に、効率が悪すぎると、重篤な副作用につながる恐れがあります。遺伝子検査を実施し、薬の効きやすさをあらかじめ把握することで、重い副作用が出てしまう可能性を低くすることができるのです。
その他にも、身近な例ですと、お酒(アルコール)に強い人、弱い人の遺伝子があげられます。これには、お酒を飲んだ時にできる毒性を持った物質、アセトルデヒド(二日酔いの原因とされる物質です)を分解する酵素、アルデヒド脱水素酵素2型(ALDH2)の活性を決定する遺伝子が関与しています。
個人を特定するために
DNA鑑定は、犯罪捜査や親子関係の鑑定、災害の犠牲者の身元確認などで利用され、遺伝子検査が最も実用化されている分野の1つと言えるでしょう。法医学等の分野以外でも、商業的なものとしては、ミトコンドリアのDNAを利用して、祖先調査を提供している会社もあります。
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DTC遺伝子検査の登場
検査技術の向上、人々の健康意識の高まりなどから、日本でも最近、医療機関を介さない遺伝子検査、DTC(Direct-to-Consumer)遺伝子検査が増えてきています。これは主に体質や疾患リスクに関する傾向などを、医療機関を介さずに直接消費者に提供するサービスですが、きちんと理解せずに検査を受けると、思わぬ精神的苦痛を抱え込むことにもつながりかねません。
医療機関を介さないDTC遺伝子検査とは
DTC(Direct-to-Consumer)遺伝子検査とは、医療機関を介さずに、TVやインターネットなどを通じて遺伝子検査の申し込みを受け付け、遺伝子検査結果から得られる体質や疾患リスクに関する傾向、それに基づくアドバイス等を提供するサービスです。当サイトで紹介している遺伝子検査キットも、このDTC遺伝子検査です。
将来的な疾患リスクを知ることで、生活習慣を見直し、病気の発症予防の動機付けとなることが期待され、近年利用が拡大されていますが、きちんと理解せずに検査を受けると、思わぬ精神的苦痛を抱え込むことにもつながりかねず、各団体がガイドラインや法規の整備を急いでおります。
DTC遺伝子検査の始まり
DTC遺伝子検査は、アメリカで2000年代にスタートしました。2010年時点では、市場に約30社400サービスありましたが、今では淘汰されて、ナヴィジェニクス社とGoogleが出資している23andMe社の2社のみとなっています。ただし、最大手だった23andMeは、現在FDA(アメリカ食品医薬品局)から、「検査は医療行為であり、それに齟齬があると被験者に対して重大な損害を与えうる」として、検査サービスの一部差し止め処分を受けています※。
※ 23andMe社は、健康関連の情報提供を停止しましたが、祖先調査と医学的解釈を行わない生の遺伝子配列データの提供は続けています。また、2015年2月、FDAは、ブルーム症候群の遺伝子検査キットに限り、23andMe社に販売を認めました。
日本の市場では、美容、ダイエット関連分野において、2次サービス(サプリメントの販売やエクササイズ指導など)の販売につなげるための検査として、2005年ごろから提供され始めましたが、今ではYahoo! JAPANやDeNAなども参入して、将来の病気のリスクを知るためなど、遺伝子検査そのものが商品化されています。
ただ、ここで注意しておきたい点は、DTC遺伝子検査は、病院で実施される診療や診断とは異なり、あくまで検査結果から推定される、各社独自のアルゴリズムに基づく傾向・リスクについての”アドバイス”であるという点です。
DTC遺伝子検査は世界でもまだ始まったばかりで、各国とも遺伝情報を知る個人の権利と医療、ビジネスの間で対応を模索中です。先のFDAと23andMe社も、両者の間で今後のルールについて、何らかの協議が行われているのではないかといわれています。
DTC遺伝子検査にかかる費用
DTC遺伝子検査でかかる費用は、疾患のリスクや体質などを幅広く、数10~数100項目検査するタイプのものであれば、数万~5万円前後、1~3程度の少数の項目(肥満遺伝子やアルコール代謝にかかわる遺伝子など)を検査するタイプのものであれば、5,000~1万円前後のものが多いです。
なお、前者の数10~数100項目検査するタイプでは、検査項目数以外にも、専門家によるカウンセリングが受けられたり、検査結果がアップデートされたりと、値段の幅以上にサービス内容に違いがあります。
ちなみに、病院等で実施される遺伝学的検査は、一部を除いて健康保険が適用されない自由診療のため、全額自己負担で数万~数10万円かかります。
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- そうなんだ! 遺伝子検査と病気の疑問(櫻井晃洋(著) ディカルトリビューン:2013年7月)
- 遺伝子医療革命(フランシス・S・コリンズ(著) NHK出版:2011年1月)
- 遺伝子診断の未来と罠(増井徹(編集)ほか 日本評論社:2014年9月)
- 月刊 薬事 2012年 05月号(じほう:2012年5月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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