お酒、アルコールが飲めないのは遺伝子のせい!
公開日:2016年03月08日
お酒を飲める人、飲めない人がいますが、これも遺伝子によるものです。このページでは、アルコール代謝に関わるADH1B、ALDH2遺伝子を説明し、それらの遺伝子を調べてくれる遺伝子検査キットを紹介します。お酒が飲めなくなるALDH2遺伝子の変異型が世界にどれくらい広がっているかについても紹介します。

アルコールが体内で分解されるまでの流れ
アルコール代謝に関わる遺伝子を理解するために、まずは、アルコールが体内に入ってから分解されるまでの流れを知っておきましょう。
1、アルコールは肝臓へ
2、有害なアセトアルデヒドに変化
3、酢酸に分解されて無害化
4、対外へ排出
その後、酢酸は二酸化炭素と水に分解され、体外に排出されます。
アルコール代謝にかかわる遺伝子
アルコールが体の中で分解されるまでの流れを説明しましたが、この中で2つの酵素、アルコール脱水素酵素(ADH1B)、アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が登場しました。この2つの酵素の働き具合によって、お酒が飲める体質、飲めない体質が決まってくるのですが、これが遺伝子のSNPによって違うのです。
ADH1B遺伝子
アルコール脱水素酵素(ADH1B)は、4番染色体にあるADH1B遺伝子からつくられます。
この遺伝子のSNPには、48番目のアミノ酸が、アルギニン(塩基:C【G】C)からヒスチジン(塩基:C【A】C)に変異したものがあります。、遺伝子の組み合わせは、2つの遺伝子の両方がアルギニンのArg/Arg型、ヒスチジンとアルギニンが1つずつのHis/Arg型、両方がヒスチジンのHis/His型の3タイプがあり、もとのArg/Arg型と比べてHis/His型は約80倍、His/Arg型は約30倍、酵素活性が上昇します。
なお、低活性型の人は、アルコールがアセトアルデヒドに変換されるまでに時間がかかります。そのため、アルコールが血中に長く残り、ほろ酔い気分が他のタイプの人よりも長く続きます。また、アセトアルデヒドの発生が遅いため、フラッシング反応(顔面紅潮、吐き気、動悸、眠気、頭痛など)が弱いそうです。
一方、大量に飲酒した場合は、アルコールの分解が遅いため翌日まで体にお酒が残ってしまいます。
このような傾向から、低活性型の人はアルコール依存症になりやすく、また、同程度の飲酒では、活性型の人よりも低活性型の人のほうが食道や咽頭のがんになりやすいそうです。
ALDH2遺伝子
アルデヒド脱水素酵素(ALDH2)は、12番染色体にあるALDH2遺伝子からつくられます。
この遺伝子のSNPには、504番目のアミノ酸が、グルタミン酸(塩基:【G】AA)からリジン(塩基:【A】AA)に変異したものがあり、グルタミン酸型(Glu)と比べてリジン型(Lys)は酵素の活性がほぼ失われています。
遺伝子の組み合わせは、両方がグルタミン酸のGlu/Glu型、グルタミン酸とリジンが1つずつのGlu/Lys型、両方がリジンのLys/Lys型の3タイプがあります。
ちなみに、Glu/Lys型では、酵素の半分は活性化していると思いがちですが、実はそうではありません。ALDH2は、ALDH2遺伝子からつくられたタンパク質が4つ組み合わせってできています。この4つのパーツの中に1つでもリジン型由来のものが含まれていると、そのALDH2は機能しません。つまり、Glu/Lys型では、半分ではなくて以下の図のように、16分の1しか機能していないのです。
非活性型の人は、少量の飲酒で血液のアセトアルデヒド濃度が急激に増加してしまい、激しいフラッシング反応を起こすため、お酒がほとんど飲めません。日本では約45%が低活性型または非活性型ですが、ヨーロッパやアフリカでは、ほとんどいないそうです。また低活性型、非活性型では、飲酒による食道や咽頭の発がんリスクが高まるそうです。
遺伝子の組み合わせと体質
ADH1B遺伝子とALDH2遺伝子の組み合わせで、お酒がどの程度飲める体質かは、以下のようになります。
ADH1B遺伝子(アルコール分解) | ||||
His/His型(高) | His/Arg型(中) | Arg/Arg型(低) | ||
ALDH2遺伝子 (アセトアルデヒド分解) | Glu/Glu型(高) | お酒に強いタイプ (日本人の割合:50%) アルコールからアセトアルデヒドへの分解、アセトアルデヒドから酢酸への分解のどちらも速いタイプで、いわゆる「お酒に強い」と言われる人たちです。 | アルコール依存症に最もなりやすい大酒飲みタイプ (日本人の割合:3%) アルコールからアセトアルデヒドへの分解が遅い一方、アセトアルデヒドから酢酸への分解は速いタイプです。アルコールが体に長くとどまるため、酔いやすく、お酒好きになりやすいタイプで、アルコール依存症のリスクが最も高い人たちです。 | |
Glu/Lys型(低) | 顔がすぐに赤くなってしまうタイプ (日本人の割合:40%) アルコールからアセトアルデヒドへの分解が速い一方、アセトアルデヒドから酢酸への分解は遅いタイプです。そのため、少量の飲酒でもアセトアルデヒドがすぐに産生され、体内に長くとどまるため、顔が赤くなったり、吐き気などの不快な症状が起きやすく、二日酔いにもなりやすい人たちです。 続けて飲んでいるとやがて耐性ができて、ある程度は飲めるようになりますが、健康障害が起こりやすいので、注意が必要です。 | お酒に強いと勘違いしやすく、健康障害のリスクが最も高いタイプ (日本人の割合:3%) アルコールからアセトアルデヒドへの分解、アセトアルデヒドから酢酸への分解のどちらも遅いタイプで、アセトアルデヒドが生成されるまでに時間がかかるため、お酒に強いと勘違いしやすい一方、アルコールが体に長くとどまるため、酔いやすく、お酒好きになりやすい人たちです。また、アセトアルデヒドも体内に長くとどまるため、飲みすぎるとすぐに不快な症状が起こり、二日酔いにもなりやすいです。 食道や咽頭のがんなど、飲酒関連疾患に罹るリスクが最も高いタイプだといわれています。 | ||
Lys/Lys型(不可) | 下戸タイプ (日本人の割合:4%) アセトアルデヒドが分解できないので、お酒は飲めない人たちです。 |
世界各地のALDH2遺伝子変異型分布
このように日本人の約半分は、お酒に強くありません。一方、お酒に弱いヨーロッパ人というのはあまり聞きません。なぜでしょうか。実は、世界各地でのALDH2のリジン変異型の分布の調査が行われていて、この研究から、ALDH2の変異は中国南部で発生し、その後各地に広がっていったという説が有力だそうです。
The Anthropological Society of Nippon 人類學雜誌 99(2), 123-139, 1991
Genetic Polymorphism of Alcohol Metabolyzing Enzymes and Its Implication to Human Ecology
アルコール代謝遺伝子を扱った検査キットの紹介
ADH1B、ALDH2遺伝子を調べる遺伝子検査キットは各社から販売されています。ここでその一部を紹介します。
これ以外の検査キットは以下の「検査キット一覧をみる」からも調べることが出来ます。
検査キット一覧をみる
アルコール
広島赤十字・原爆病院や東京衛生病院等にも遺伝子検査キットを提供しているイービーエス株式会社(販売会社はハーセリーズ社)のアルコール感受性遺伝子検査キット。
アルコール代謝に関連する2つの遺伝子を調べて、健康へのリスクや依存症への危険度を5つのタイプに分類。タイプに応じた遺伝子カード付き。
アルコール
「キヨーレオピン」等で有名な日本の製薬会社、湧永製薬が販売しているアルコール代謝関連遺伝子検査キット。
肥満関連遺伝子とセットで調べてくれる検査キットもあり。
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- 体質と遺伝子のサイエンス(中尾光善(著) ベレ出版:羊土社:2015年6月)
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
- 人体特許: 狙われる遺伝子情報(五十嵐享平(著) PHP研究所:2013年12月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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