食べ物の好き嫌いも遺伝?
味覚に関わる遺伝子たち
公開日:2016年04月28日
ヒトの味覚には、「甘味」、「苦味」、「酸味」、「塩味」そして「うま味」の5つがありますが、それぞれは、舌にある別々の味細胞(味を感じるための細胞)がキャッチします。
ちなみに、甘味は舌の先端で、苦味は舌の奥で、酸味、塩見は舌の側面で感じているという説が広まっていますが、今ではこの説は完全に否定されていて、舌の先端、奥、側面にある「味蕾(みらい)」と呼ばれるものの中に、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味に対応した味細胞すべてが入っていることが分かっています。
これら味細胞にある味受容体(センサー)の設計図に当たる遺伝子も近年発見されていて、その遺伝子の違いによって、味の感じ方も違うようです。もしかするとあなたの食べ物の好き嫌いは、親からの遺伝かもしれませんね。
野菜嫌いは「苦味」遺伝子のせいかも?
1931年、アメリカの化学メーカー、デュボン社に務めていたアーサー・ホックス研究員は、フェニルチオカルバミド(PTC)と呼ばれる有機化合物を誤って落としてしまいました。そのとき、舞い上がった粉末を吸い込んだ同僚はひどい苦味を感じたのに対して、アーサーは何も感じませんでした。このことから、PTCを苦く感じる人とそうでない人がいることが発見されました。その後、アーサーは、この現象が父方の遺伝であることを突き止めたのですが、その原因遺伝子が発見されたのは、2003年、アメリカの研究グループによってでした。
発見された遺伝子は、7番染色体にあるTAS2R38遺伝子で、苦味の感度が異なる3つの型があります。高感度の遺伝子を持つ人は、当然苦味に敏感になり、低感度の遺伝子だとあまり苦味を感じません。最近では、ブロッコリーやキャベツを苦く感じるかどうかに、この遺伝子が関与していることを示すデータが報告されているそうです。
「うま味」遺伝子の変化が、パンダを肉食から草食に変えた?!
「うま味」は、5つの基本味の1つで、東京帝国大学(現:東京大学)の池田菊苗博士が1908年に発見しました。しかし、当時は欧米の学者からはうま味の存在は懐疑的にみられていて、うま味が世界的に認知されるようになったのは、2000年、舌の味蕾にうま味の受容体があることが発見されてからでした。ちなみにうま味は、英語でも日本語の「umami」が使われています。
このうま味受容体には、TAS1R1とTAS1R3という2種類のタンパク質から構成されています。このうち、TAS1R1のもとになっているTAS1R1遺伝子に変異が生じて、肉のうま味が感じられなくなった結果、肉食から草食に変化したのではないかと考えれられている動物がいます。それは、動物園でも人気のパンダです。
パンダが草を食べ始めたのは約700万年前、そして約420万年前にTAS1R1遺伝子に変異が生じ、約200万年前に完全な草食動物に移ったそうです。ちなみに、パンダは肉食のクマとほぼ同じタンパク質を分解する酵素を持っていて、それは元々パンダが肉食動物だったことの名残なのではないかと考えられています。
TMolecular Biology and Evolution Volume 27, Issue 12Pp. 2669-2673
Pseudogenization of the Umami Taste Receptor Gene Tas1r1 in the Giant Panda Coincided with its Dietary Switch to Bamboo
ペンギンは「酸味」と「塩味」しか分からない?!
しかし、さらに味が分からない動物もいます。それはペンギンで、5つの基本味のうち、甘味、苦味、うま味の3つを感じることができず、酸味と塩味しか感じていない可能性があるそうです。なぜ、ペンギンは酸味と塩味しか感じられないのでしょうか。
ペンギンが甘味、苦味、うま味の味覚を失った理由の1つとして、TRPM5と呼ばれるタンパク質の働きの低下が議論されています。TRPM5は、舌の味蕾が受け取った甘味、苦味、うま味の信号を伝える働きをするタンパク質なのですが、低温に弱く、温度が下がるとタンパク質の活性が低下してしまいます。ペンギンが住んでいる場所は極寒の南極ですので、TRPM5が働かず、そのため甘味、苦味、うま味をあまり感じることができなかったため、これら3つの味覚は必要なくなっていったのではないかと考えられています。ちなみに、温かい地域に住んでいるペンギンもいますが、それらももともとは南極に住んでいて、3つの味覚を失った後に南極大陸を出ていったのではないかと言われています。
Curr Biol. 2015 Feb 16;25(4)
Molecular evidence for the loss of three basic tastes in penguins
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