日本人はカフェインが苦手?お茶やコーヒーの感受性に関わる遺伝子
公開日:2017年05月18日
私たちが日常的に飲んでいるコーヒーやお茶ですが、その中に含まれるカフェインの感受性は個人差が大きく、ADORA2A遺伝子という遺伝子の多型(CC型、CT型、TT型)の影響を受けます。そして日本人の4人に1人の遺伝子は、カフェインによって不安感が表れやすいTT型だそうです。

最も成功したドラッグ「カフェイン」
コーヒーやお茶に含まれるカフェインは、神経を鎮静させる作用を持つアデノシンという物質と化学構造が似ていて、アデノシンが本来結合するアデノシン受容体にとりついて、アデノシンの働きを阻害し、脳の神経を興奮させます。これによって、集中力が高めたり、疲労を消す効果があり、私たちの日常の中にもカフェインは広く浸透しています。
一方、摂取しすぎると頭痛、不安、抑うつ、不眠、嘔吐、下痢、さらには中毒症状を起こすこともあります。ゆえに、カフェインは、「最も成功したドラッグ」とも呼ばれ、各国、地域、団体が摂取量についての注意喚起を行っています。
アデノシンとカフェインの化学構造
(1) アデノシンの働き※
神経線維の電気シグナルがシナプス小胞に伝えられると小胞はシナプス前膜に移動し興奮性情報伝達物質ドーパミンなどと一緒にATPを放出。
ドーパミンはシナプス後膜のドーパミン受容体に伝わり興奮シグナルを伝える。
一方ATPはリン酸を失いアデノシンへと素早く分解されアデノシン受容体と結合した後、興奮性神経伝達物質の量を抑制するシグナルを出し、ドーパミン等の放出を抑制し興奮を鎮めるなど伝達物質の量をコントロールしている。
(2) カフェインの働き※
カフェインはアデノシンの拮抗薬として、アデノシン受容体に結合してアデノシンの結合を阻害することにより、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質の抑制が効かず、不眠や興奮などの作用が現れる。
カフェインによる中枢神経興奮作用とアデノシン受容体ADORA2A遺伝子
しかし、このカフェインの感受性は個人差が大きく、アデノシン受容体の1つ、A2A受容体の遺伝子(ADORA2A遺伝子)の影響を受けることが分かってきました。
Nature Neuroscience 8, 858 - 859 (2005)
Adenosine A2A, but not A1, receptors mediate the arousal effect of caffeine
ADORA2A遺伝子には、CC型、CT型、TT型の遺伝子多型があります。 CC型、CT型はコーヒーなどのカフェイン消費量が多いのに対して、TT型は、カフェイン摂取後不安感が出やすく、カフェイン摂取量も少ないそうです。
日本人にはカフェインが苦手なTT型が多い
このTT型の遺伝子は、日本をはじめ、中国を除くアジア地域に多くみられ、150mgのカフェイン(コーヒー2杯程度、紅茶ペットボトル(500ml)1本程度)摂取でも不安定な気持ちになるという報告もあります。
一方、欧米白人やアフリカ人は、このTT型遺伝子の割合が少なく、C遺伝子が多いそうです。
国 | CC(%) | CT(%) | TT(%) |
---|---|---|---|
日本(茨城) | 24.7 | 49.4 | 26.0 |
ミャンマー | 21.5 | 47.3 | 31.2 |
モンゴル | 24.1 | 49.4 | 26.6 |
中国(上海) | 24.2 | 61.1 | 14.7 |
米国(白人) | 34.8 | 44.6 | 20.7 |
コートジボアール | 42.6 | 46.8 | 10.6 |
カメルーン | 51.6 | 37.5 | 10.9 |
コロンビア | 47.2 | 45.8 | 6.9 |
世界各地のADORA2A遺伝子の割合
筑波大学技術報告 31: 33-38, 2011 「お酒やコーヒーなど日常的飲み物と日本人の遺伝子」より
(参考1)各飲み物のカフェイン濃度
農林水産省「カフェインの過剰摂取について」より
食品名 | カフェイン濃度 | 備考 |
---|---|---|
エナジードリンク 又は 眠気覚まし用飲料(清涼飲料水) | 32~300mg/100ml (製品1本当たりでは、36~150mg) | 製品によって、カフェイン濃度及び内容量が異なる。 |
コーヒー(浸出液) | 60mg/100ml | 浸出法:コーヒー粉末10g 熱湯150ml |
インスタントコーヒー(粉末) | 4.0g/100g (2g使用した場合、1杯当たり80mg) | |
せん茶(浸出液) | 20mg/100ml | 浸出法:茶葉10g、90℃湯430ml、1分 |
ほうじ茶(浸出液) | 20mg/100ml | 浸出法:茶葉15g、90℃湯650ml、0.5分 |
玄米茶(浸出液) | 10mg/100ml | 浸出法:茶葉15g、90℃湯650ml、0.5分 |
ウーロン茶(浸出液) | 20mg/100ml | 浸出法:茶葉15g、90℃湯650ml、0.5分 |
紅茶(浸出液) | 30mg/100ml | 浸出法:茶葉5g、90℃湯360ml、1.5~4分 |
(参考2)各国のカフェインの摂取に関する注意喚起
農林水産省「カフェインの過剰摂取について」より
世界保健機関(WHO)
妊婦に対し、コーヒーを、1日3~4カップまでにすることを呼びかけています。
Healthy Eating during Pregnancy and Breastfeeding. WHO, 2001
アメリカ
保健福祉省(DHHS)、農務省(USDA)
2015年の栄養ガイドラインに関する科学レポートの中で、健康な大人であれば、1日当たり3~5カップ又は400mgまでならカフェインの慢性的毒性のリスク(心血管疾患など)は増加しないとしています。
一方、カフェインをお酒(アルコール)と一緒に摂取した場合の健康影響については懸念を示し、アルコールとエナジードリンクを一緒に摂取するべきでないとしています。
Scientific Report of the 2015 Dietary Guidelines Advisory Committee
FDA to Investigate Added Caffeine
米国疾病予防管理センター(CDC)
エナジードリンクとアルコールを混ぜて飲むことの危険性について、注意喚起しています。
カフェイン入りのエナジードリンクをお酒と混ぜて飲むと、お酒だけ飲んだ場合に比べて3倍飲み過ぎた状態になるそうです。
Fact Sheets Caffeine and Alcohol
米国食品医薬品局(FDA)
インターネットで入手可能な純粋な粉末状のカフェインを摂取しないよう注意喚起しています。
FDA Consumer Advice on Pure Powdered Caffeine
ヨーロッパ
欧州食品安全機関(EFSA)は、2015年にカフェインについてリスク評価を行っていて、大人では、カフェイン摂取量が3mg/kg体重/日であれば急性毒性の懸念はないとしています。また、体重70 kgの大人であれば、1回当たり200mgのカフェイン摂取であれば健康リスクは増加せず、習慣的なカフェイン摂取については、1日当たり400mgまでであれば健康リスクは増加しないとしています(妊婦を除く)。
一方、については、習慣的なカフェイン摂取について、1日当たり200mgまでであれば、胎児や乳児の健康リスクは増加しないと評価しています。
なお、子供については、長期的・習慣的なカフェイン摂取に関する研究が少なく不確実性が残るものの、大人と同様、3mg/kg体重/日であれば悪影響が見られないと推測されるとしています。
Scientific Opinion on the safety of caffeine EFSA Journal 2015;13(5):4102
カナダ
2003年に食品中のカフェインについてレビューした結果から、以下の推奨摂取量を定めました。
4~6歳の子供 | 45mg/日 |
7~9歳の子供 | 62.5mg/日 |
10~12歳の子供 | 85mg/日 (355mlのコーラなら、1~2缶まで) |
妊婦、授乳婦 | 300mg/日 |
健康な大人 | 400mg/日 |
Caffeine in Food Health Canada
また、エナジードリンクについては、2015年12月に2015年12月にリスク評価を行い、大人では1日当たり2本までであれば、健康への悪影響の懸念はないとしつつも、子供ではカフェイン摂取を抑制するべきとしています。
Energy Drinks: An Assessment of the Potential Health Risks in the Canadian Context
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