オーダーメイド医療の実現に向けて
公開日:2016年01月04日
薬の効きやすさは、人によって個人差がありますが、これは、主に、体内で薬に作用する酵素の効率が人の遺伝子によって違うからです。そのため、薬を投与する前に予め患者の遺伝子を調べ、薬の効き具合や副作用などを予測することが必要です。
なぜ薬の効き方が人によって違うのか
薬の効きやすさは、人によって個人差がありますが、これは、主に、体内で薬に作用する酵素の効率が人の遺伝子によって違うからです。
通常、薬はそのままでは作用せず、体内で酵素の働きで活性化し、やがて別の酵素の働きで分解されていきます。活性化させる酵素の働きが弱いあるいは分解する酵素の働きが強すぎる場合、薬の効きが悪くなります。逆に活性化させる酵素の働きが強すぎるあるいは分解する酵素の働きが弱い場合、薬が効き過ぎて重い副作用を引き起こす恐れがあります。
そのため、薬を投与する前に予め患者の遺伝子を調べ、その遺伝情報から薬の効き具合や副作用、投与すべき薬の量を予測するオーダーメイド医療が必要だと研究が進められています。
オーダーメイド医療の問題点
オーダーメイド医療は有害な副作用のリスクを抑えることができるというメリットがありますが、その実現には以下のような難しい問題点もあり、今後の解決が期待されます。
- オーダーメイド医療に必要な遺伝要因を探す研究がそもそも難しい。
- 製薬会社にとって、効かない薬の研究は経済的モチベーションが低い。
- 遺伝子検査は専門的な研究機関で数日かけて行われるため、緊急性の高い投薬には、対応が困難。
- 医療の人種差別に繋がる恐れ。
オーダーメイド医療が期待されている疾患、薬の例
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ワルファリン(商品名:クマジン)
ワルファリンは、遺伝子検査(Dx)を行ってから薬を処方する(Rx)、「DxRxパラダイム」の先駆け的な薬になるであろうと言われている薬です。ワルファリンは抗血液凝固剤で、血栓症の治療及び予防薬として使われていますが、過剰服用による腸出血や脳出血による死亡例が多い薬でもあります。
このワルファリンの適用量が、体内でのワルファリンの働きに関与するCYP2C9遺伝子とVKORC1遺伝子という2つの遺伝子の多型によって、40%もの個人差があることが分かり、FDA(アメリカ食品医薬品局)もワルファリン処方前の遺伝子検査実施を勧めています。
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ストレプトマイシン
「ストレプトマイシン」は結核に対する抗生物質ですが、時に難聴を引き起こすことが知られています。これは、内耳の細胞内にあるミトコンドリアに障害を与えているためで、ミトコンドリア遺伝子に変異(1555番目のアデニンがグアニンに変異)しているとこのような副作用が生じると言われています。
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抗がん剤
がんは、遺伝子の病気で、一人一人に少しずつ違いがあります。抗がん剤はオーダーメイド医療が特に期待されている分野でもあり、一部は日本でも実用化されてます。
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ゲフィチニブ(商品名:イレッサ)
「ゲフィチニブ」は、肺がんなどに劇的な効果を示しますが、がん細胞にEGFR遺伝子の変異がないと効果があまり期待できません。そのため、ゲフィチニブ投与前にがん細胞の遺伝子を調べる検査が日本でも受けることが可能で、保険適用となっています。
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セツキシマブ(商品名:アービタックス)
「セツキシマブ」は、大腸がんに対する抗がん剤ですが、転写や細胞増殖、細胞死の抑制などに関わっているRASタンパク質のKRAS遺伝子に変異があるとの効果が期待できないと言われています。そのため、2010年からこの薬を投与する前にKARS遺伝子の遺伝子検査が保険適用で可能となっています。
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クリゾチニブ(商品名:ザーコリ)
「クリゾチニブ」は、2番染色体のALK遺伝子と別の遺伝子が融合したALK融合遺伝子を持っている患者に対して有効な肺がんの抗がん剤です。そのため、クリゾチニブ投与前には、遺伝子検査でALK融合遺伝子の有無を確認する必要があります。
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遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
- 遺伝子医療革命(フランシス・S・コリンズ(著) NHK出版:2011年1月)
- 生命解読(中西真人(編さん) 日経サイエンス社:2015年10月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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