Gattaca(ガタカ)は遺伝子検査の未来なのか?
公開日:2015年12月07日
遺伝子検査関連の書籍を読んでいると、必ずと言っていいほど引き合いに出される映画があります。
それが、Gattaca(ガタカ)(1997年:米国)です。もう20年近くも前の映画なんですね。映画をご存じでない方のためにあらすじを少しだけ。
あらすじ
遺伝子検査技術の向上により、優秀な知力、体力、外見を持つための遺伝子を人為的に選択して生まれてくる「適正者」と、”自然な”かたちで生まれてくる「不適正者」。法律では否定されているものの、実社会では就職や結婚などにおいて「適正者」と「不適正者」の間に明確な差別が存在する近未来…
そんな世界に「不適正者」として生まれ、医者からは心臓が弱く30歳までしか生きられないと告げられていた主人公ヴィンセント(イーサン・ホーク)。彼の夢は宇宙飛行士、しかし「不適正者」の彼にはかなうはずのない夢だった。 しかし諦めきれないヴィンセントは、遺伝子的にはかなうはずのない「適正者」の弟、アントン(ローレン・ディーン)との遠泳の競争に勝ったことを契機に、家を出る決意をする。
家を出たヴィンセントは、職を転々とした後、宇宙開発企業「ガタカ」の清掃員として働く傍ら、宇宙飛行士になるための努力を一人孤独に続けていく。
しかしどうしても、越えることができない壁、「不適正者」の遺伝子。
ヴィンセントはついにDNAブローカーに接触する。ブローカーから紹介された相手は、最高品質の遺伝子を持ちながら、現在は下半身不随になり、酒びたりになってしまっている元エリート水泳選手、ユージーン(ジュード・ロウ)。ヴィンセントはユージーンから、尿や血液などの生体サンプルの提供を受け、「適正者」であるユージーンになりすまし、「ガタカ」に入社することができた。
入社後は、優秀な仕事ぶりを評価され、やがて夢だった土星の衛星タイタン行きの宇宙飛行士に選ばれる。しかし、そこで事件が発生。ロケット打ち上げに反対していたヴィンセントの上司が、社内で何者かに殺されたのだ。そして、捜査官が発見した毛1本から「不適正者」のDNAが検出。ヴィンセントは次第に追い詰められてゆき…
Gattaca(ガタカ)の世界の実現性
この映画は、2012年NASAが現実的なSF映画1位に選んだ映画ですが、実現性については、やや懐疑的な部分もあります。
遺伝子で人生の全てが分かるのか
映画の中では、生まれた赤ん坊はすぐに遺伝子検査をされ、あらゆる疾患の可能性、推定寿命が即座に判定されます。しかし実際には、多くの一般的な病気(common disease)が、複数の遺伝要因と環境要因の影響を受けるため、映画の中で行われているほどの判定は、難しいでしょう。
個人の特徴に与える遺伝要因と環境要因の影響度
塩基配列の組み合わせ
1つの病気、体質、才能だけをとっても、それに関与する遺伝子は多数あります。親が求めるような特長全てを備えるための塩基配列を持ったゲノムをどのように準備しているかは、映画の中では語られておりませんでしたが、精子、卵子のなかのDNAの塩基を直接入れ替えるにせよ、自然に得られたものの中から条件に合ったものを選択するにせよ、相当のコストがかかるはずです。ノンコーディングRNAなどを考慮すれば、最大約60億(父親由来のゲノム30億、母親由来のゲノム30億)の塩基対をデザインしなければならないのですから。
さらに、エピジェネティクスなどが絡んでくれば、デザイン通りに遺伝子がうまく機能してくれるかどうかも、分かりません。
倫理観、宗教観の側面から
遺伝子関連の科学は、医療の発達に大きく貢献する一方、倫理面でたびたび議論されている分野です。また、日本人にはあまりピンと来ないかもしれませんが、宗教的側面からも難しい分野で、アメリカなどでは、ときの政権の宗教観にも大きく左右されてきました。
独立行政法人 科学技術振興機構(JST)
iPS細胞研究へのアメリカ政権交代の影響
ますます価値観が多様化する現在、遺伝子を人為的に操作して優秀な子をつくるという考えがスタンダードなものになるのかどうか、やや疑問です。
最後に
遺伝子関連の話を中心にしてきましたが、実際映画を見てみると、SF的な話よりも努力や友情といった要素のほうが強い映画で、遺伝子の知識が全然なくても楽しめます。
各社のレビューでも評価が高いものが多いので、ぜひ一度ご覧になることをおすすめします。
平均レビュー点
Gattaca(ガタカ)
1997年 アメリカ
監督:アンドリュー・ニコル
主演:イーサン・ホーク
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
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