エピジェネティクス(エピゲノム)
- 三毛猫DNAが白黒縞模様に! -
公開日:2015年10月23日
エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみのことで、その情報の集まりがエピゲノムです。近年では、このエピジェネティクスに異常が生じると、癌を初めとするさまざまな疾患に関わることが報告されています。
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同じDNAなのに毛並みが違う猫
単一遺伝性疾患、多因子遺伝性疾患、どちらもSNPによる遺伝子の違いが疾患の要因ですが、DNAが全く同じであるにもかかわらず、形質が異なる場合があります。
世界初の体細胞クローン猫のCCの話をご存知でしょうか。愛猫を失くした飼い主が、アメリカのクローンペット会社に依頼して、2001年12月22日に誕生したクローン猫です。クローンなので、当然元の猫とCCは同じ遺伝子です。しかし、生れてきたCCは元の猫と外見が全く異なっていました。元の猫はきれいな毛なみの三毛猫だったのに対して、CCは白地に黒の縞模様だったのです。
※bの写真の子猫のほうがクローン猫、CC。aの写真の三毛猫とは毛なみの色が違います。
エピジェネティクスとは
なぜ遺伝子は同じなのに、CCは三毛猫にならなかったのでしょうか。それは、三毛猫になる条件の遺伝子が働かなかったからです。遺伝子のスイッチをオン、オフする要素、それが、エピジェネティクスだといわれています。
エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列を変えることなく、遺伝子のはたらきを決めるしくみのことで、その情報の集まりがエピゲノムです(CREST / JST 「なぜ今、エピゲノムなんですか? エピゲノムって、なんですか?」 より)。近年では、このエピジェネティクスに異常が生じると、癌を初めとするさまざまな疾患に関わることが報告されています。
では、エピジェネティクスの実態は何か、それは「DNAのメチル化」と「ヒストン修飾」だといわれています。
DNAのメチル化
DNAのメチル化とは、塩基配列の中で、C(シトシン)にメチル基(-CH3、炭素原子1つと水素原子3つ)がくっつくことです。
遺伝子のプロモーター部分(転写(DNAからRNAを合成する段階)に関与する部分)がメチル化されると、遺伝子が使われないようにする蛋白質が集まり、その結果、その遺伝子は働かなくなってしまいます。
プロモーター部分のメチル化によって遺伝子のスイッチがOFFにされる
ヒストン修飾
DNAが巻きついているヒストンもまた、さまざまな化学修飾(メチル化、アセチル化、リン酸化など)を受けます。このヒストン修飾によって、クロマチンの機能を制御したり、メチル化と関連しながら、遺伝子の発現に影響していると考えられています。
修飾基の由来
これらのメチル化、ヒストン修飾に関わる修飾基はどこから調達されてくるのでしょうか。それは、私たちが食べた食事に由来します。先ほど紹介した「メチル基」は「S-アデノシルメチオニン」というアミノ酸に由来し、「アセチル基」は「アセチルCoA」という、糖や脂肪酸に由来します。「リン酸基」は、エネルギー源であるATPに由来します。
このことから、食事や運動などの生活習慣がエピゲノムに影響を与えているだろうということが予想できます。
修飾基の由来
(「あなたと私はどうして違う?体質と遺伝子のサイエンス」(中尾光善 羊土社 2015年)より転載)
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