染色体異常と遺伝病
公開日:2016年01月04日
私たちの染色体は、通常2本で1セットですが、ときに特定の染色体だけ3本(トリソミー)や1本(モノソミー)になることがあり、様々な症状を引き起こします。
1~22番染色体とXY性染色体
常染色体トリソミー
常染色体のうち、21、18、13番染色体でトリソミーが生じると、以下のような症状を引き起こします。一方ほかの常染色体では、重い症状が妊娠中に起こり、早期に流産してしまう場合がほとんどです。
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21トリソミー(ダウン症候群)
21番染色体でのトリソミーは、肉体的成長の遅延、特徴的な顔つき、軽中度の知的障害を引き起こします。いわゆるダウン症候群と呼ばれる症状ですが、障害の程度が比較的軽く、長生きすることもあります。また、ダウン症は高齢出産の際に生じることが多いといわれています。これは、卵のもとになる卵母細胞が誕生時から変わらないため、高齢になるにつれ細胞が老化してしまい、その結果、卵となるときにうまく減数分裂ができなくなってしまうためではないか、と考えられています。
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18トリソミー(エドワーズ症候群)
18番染色体でのトリソミーでは、出生時の低体重、小さい顎や耳介低位、指の重なりなどの外見的特徴のほかに、心室中隔欠損症、心内膜床欠損症などの心疾患を発生することがあります。18トリソミーも高齢出産になるにつれ発生リスクが高まりますが、21トリソミーよりも生後の生存率は低く、生後1週間~2か月で半数が死亡し、生後1年まで生存する割合は10%程度といわれています。また、生存した場合も著明な発達の遅延と能力障害がみられ、特異的な治療法はないそうです。
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13トリソミー(パトウ症候群)
13番染色体でのトリソミーでは、口唇裂、口蓋裂、頭皮部分欠損のほか、全前脳胞症(前脳が正しく分割されなかったもの)もよくみられます。非常に症状が重く、生後1か月で80%死亡し、1年以上生存できるのは10%未満といわれています。
性染色体異常
X染色体の異常はよくみられ、様々な先天異常や発育異常を伴う症候群の原因となりますが、過剰な染色体は不活性化するため、常染色体トリソミーと比較して症状は軽く、一生発見されない場合もあります。
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性染色体モノソミー(ターナー症候群)
X染色体にはヒトの生命に欠かせない遺伝子が入っているので、Y染色体のモノソミーは存在しません。そのため、性染色体のモノソミー(X染色体のモノソミー)は、女性のみに発生します。症状としては、低身長、翼状頸、新生児での手足、頸部のリンパ浮腫などのほかに先天性心疾患などがあります。一方、精神遅滞はまれですが、多くの症例で特定の知覚能力に一定の減退があり、知能検査の言語性課題では平均以上の成績でも、動作性検査や数学の成績は悪くなる傾向にあるそうです。
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クラインフェルター症候群
男性のみに発生するもので、X染色体が過剰な状態です(XXY、XXXYなど)。高身長で手足が不自然に長く、体毛が発生不良、そして患者の約30%で女性化乳房があらわれます。また、患者の多くは言語性IQ、聴覚処理能力および読字能力が低いそうです。
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XXX症候群(スーパー女性)
X染色体を3つもつ女性ですが、外見的には通常のXXの女性と区別がつかないことがほとんどです。精神的にも正常であることが多く(軽度の知能障害を持つことがある)、妊娠も可能です。
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XYY症候群(スーパー男性)
Y染色体が過剰(XYY、XYYYなど)な状態の男性で、外見的には身長が高いこと以外は通常と変わらず、身体的問題はほとんどありません。軽度の行動障害、多動性、注意欠陥障害および学習障害がみられることが多いそうです。
常染色体部分モノソミー
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5pモノソミー(ネコ鳴き症候群)
5番染色体の短腕(5p)末端部が欠失することによって起こり、出生時に猫のようなかん高い鳴き声があることから、猫鳴き症候群と呼ばれています。この猫のような鳴き声は成長とともになくなり、患者の多くが成人期まで生存しますが、精神的、身体的発達は遅れ、重度の能力障害をもちます。
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4pモノソミー(ウォルフ-ヒルシュホーン症候群)
4番染色体の短腕(4p)が欠失することによって起こる骨髄異形成症候群の1つで、重い精神遅滞を引き起こします。鷲鼻、頭皮欠損、口蓋裂等も含み、患者の多くは乳児期に死亡します。
遺伝子、遺伝子検査についてもっと知りたい方へ
このページを作成するにあたり、参考にしている書籍等を紹介します。
- 学んでみると遺伝学はおもしろい(針原伸二(著) ベレ出版:2014年3月)
- そうなんだ! 遺伝子検査と病気の疑問(櫻井晃洋(著) ディカルトリビューン:2013年7月)
- 遺伝とゲノムどこまでわかるのか(ニュートン別冊 ニュートンプレス:2013年7月)
その他の遺伝子、遺伝子検査に関する参考資料はこちら。
参考資料一覧
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