Y染色体を用いた
父系統ハプログループの研究
公開日:2016年03月23日
ミトコンドリアDNAを使った祖先解析の話をしましたが、Y染色体もミトコンドリアDNA同様、突然変異等が起こらなければ遺伝子の変化が生じずに、父から息子へとそのまま伝わるDNAです。しかし、Y染色体を用いたヒトのルーツを探る研究は、これまでなかなか進んでいませんでした。なぜでしょうか。それはミトコンドリアDNAの塩基の数が1万6000塩基対程度であるのに対して、Y染色体はその3,000倍以上の5000万塩基対もあるからです。その数の多さから、Y染色体全体にランダムに含まれている変異の全てを調べて系統関係を明らかにすることが難しいのです。しかし、近年、Y染色体の系統関係はかなり詳細にわかってきて、2002年、18の大分類と153のハプログループの標準化がなされました。

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Y染色体の系統図
ミトコンドリア・イブ同様、Y染色体もルーツをたどっていけば、一人の男性にたどり着きます。この男性「Y染色体アダム」は、約10万年ほど前に誕生し、そこから以下の様な分岐をしていったと考えられています。
Y染色体DNAの系統図(18の大分類)
(「日本人になった祖先たち」(篠田謙一 NHKブックス 2007年)より)
Y染色体の系統図でもミトコンドリアDNA同様、アフリカだけに古い年代の分岐があります。一方、アフリカ以外のY染色体の系統は、6万8000年ほど前に誕生したと言われています。つまり、この時期に新人の男性がアフリカから出発したということなのですが、この年代は、ミトコンドリアDNAから導き出された年代とほぼ同じです。
世界各地への人類拡散ルートも、細部で一致しないものがあるものの、概ねミトコンドリアDNAの分布から推測されるものと同じです。
日本人のY染色体ハプログループ
日本人のY染色体ハプログループは、18の大分類のうち、O、C、Dの3系統で、全体の9割以上を占めています。
ハプログループO
ハプログループOは、日本人男性の約半分を占める最大グループです。20種類以上あるOのサブグループのうち、日本に主に分布しているのは、O2bとO3です。
ハプログループOは、東アジア、オセアニアに広がっていますが、O2bは主に朝鮮半島や華北地域に、O3は主に華北から華南にかけて分布しているそうです。
ハプログループC
ハプログループCは、日本人男性の約1割を占め、C1とC3と呼ばれるサブグループが日本に主に分布しています。ハプログループCは、東アジア、オセアニア以外にも、シベリア、南北アメリカ大陸に分布しています。
日本人に多いサブグループC1はインドネシアに、サブグループC3はロシア極東の先住民やモンゴルに高い頻度で見られることから、C1は南から、C3は北からそれぞれ日本に入ってきたと推測されます。
ハプログループD
ハプログループDは、日本人男性の約3〜4割を占め、D2と呼ばれるサブグループが日本に主に分布しています。
ハプログループDは、Y染色体DNAに、YAP+と呼ばれる余分なDNA配列が挿入されています。日本以外では、チベットで男性人口の約3割を占めています。
これらO、C、Dは、さきほどの系統図の通り、系統的には比較的離れています。このように離れた系統が混在していることから、日本人のルーツは、私達が思っている以上に、多様なものなのかもしれません。
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