アイスランドとデコード社の遺伝子研究事情
公開日:2016年02月05日
「アイスランド」という国に対して、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか。旅行好きの方ならオーロラ、温泉、氷河、音楽好きならビョーク、シガーロス、ムーム、金融関係者であれば2008年の金融危機でしょうか。しかし、実は、アイスランドは世界有数の遺伝子研究先進国でもあります。
アイスランド人の遺伝子の特殊性
アイスランドは面積約10.3万km2、人口約32万人の北大西洋にある小さな島国です。この国には、9世紀に北欧のバイキングが移住してきて以降、外部からの移民の流入はほとんどありませんでした。そのため、アイスランド人の遺伝子は、他の国の人々と比べて、島全体で非常に似たものになっています。
さらにアイスランド人は先祖代々の家系図を保有していて、家族の誕生、死亡、などが細かく記録されています。また、100年ほど前から各医療機関にも国民の医療記録が残されています。これらの条件は、健康な人と病気の人との遺伝子の違いを探し当てるのに非常に好都合で、遺伝子研究に非常に有利なものでした。
デコード・ジェネティクス社と「国民健康データベース法」
この特殊性に注目したのが、アイスランド出身のハーバード大学カリ・ステファンソン博士でした。博士はイギリスから祖国のアイスランドに戻り、デコード・ジェネティクス(deCODE Genetics)社を設立、政府に働きかけて、1998年に「保健医療分野データベース法」を、2000年に「バイオバンク法」を成立させました。
デコード社はこれらの法律の下、独占的にアイスランド国民の健康管理や医療情報を管理。国民の遺伝子情報を収集し、2010年時点で国民の約半数に当たる14万人分の遺伝子情報を集め、脳卒中、アルツハイマー病、統合失調症、前立腺がん、心筋梗塞、骨粗しょう症などの病気にかかわる遺伝子やSNPを発見していきました。
デコード社を襲った金融危機と米国アムジェン社による買収
順調に成長しているかに見えたデコード社ですが、2009年、突然個人向け遺伝子検査を打ち切り、アメリカで連邦破産法の申請を行いました。これには2つの大きな要因がありました。
まず一つ目は強力なライバル社たちの登場です。特にGoogleが出資するアメリカの23andMe社は豊富な資金力と知名度を武器に低価格で遺伝子検査を提供、市場シェアを伸ばしていました。
さらに2009年11月のリーマンショックが発生。運転資金の全てをリーマン・ブラザーズに預けていたデコード社は、6億7600万ドルという巨額の損失を出してしまったのです。
危機的な状況に瀕したデコード社でしたが、アメリカの投資会社の融資を受けることができたため事業を継続、その後2012年に、アメリカの医薬品メーカーであるアムジェン社に4億1500万ドルで買収され、アムジェン社の子会社となりました。
遺伝子検査ビジネスから撤退したデコード社ですが、遺伝子の研究はその後も続けていて、2015年3月には、Nature Genetics に4本の画期的な研究論文を発表、関係者の注目を集めています。
Nature Genetics 47, 425 (2015)
Letters from Iceland (新たな知見をもたらすアイスランド発の論文)
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